白いかぼちゃ
卯野ましろ
白いかぼちゃ
ぼくは白い。普通の緑じゃない、ハロウィンのオレンジでもない、白いかぼちゃ。
ぼくは今、とあるスーパーの野菜売り場にいます。
「何、このかぼちゃ~」
みんな必ず、ぼくを不思議そうに見てきます。二度見をされることも多いです。
「栄養なさそう」
「気持ち悪い……」
「誰が買うんだろ」
みんな必ず、ぼくにそんな言葉を残して、去っていきます。
ぼくだって、好きで白いんじゃない。
ぼくは生まれたときから、体の色が白でした。そしてぼくの周りは緑、たまにオレンジと、ぼくとは全然違う色でいっぱいでした。
「うわ! なんだあいつ、白いぞ!」
ぼくが初めて聞いた言葉が、これでした。その一言を放ったのは、緑のかぼちゃでした。
「絶対に誰も買ってくれないよ、あんなかぼちゃ」
「白くて、あまり体に良くなさそう」
「まずそう」
他の緑のかぼちゃも、次々に言葉を放ってきました。そしてさらに、
「あたし達は、オシャレよね」
「ハロウィンには必要な存在ですもの」
「あんな貧相な見た目に生まれなくて、良かったわ」
オレンジのかぼちゃのみんなも、ぼくについて色々と話していました。
……ぼくは白くて、ダメ?
怖かったです。みんなの目と言葉が、怖かったです。
その恐怖は今も続いています。
いっそ生ゴミにしてくれ。つらい。
どうせ白いぼくなんて、普通のときも、ハロウィンや冬至のようなイベントでも、必要とされていないのだから。
それなら、もう生ゴミになりたい。早く、早く。
もう意地悪な言葉なんて、聞きたくない。ぼくを不思議そうに見る目なんて、見たくない。
嫌だ、嫌だ、嫌だ……。
……ん?
気がついたら、ぼくの姿は色々な料理へと変化を遂げていました。煮物、サラダ、そして炒め物。
目が覚めたら、捨てられていますように。そう願って眠りについたのに。
「さぁさ、召し上がれ!」
ぼくを調理したのは、この人か。
「いただきます、おばあちゃん!」
ぼくを調理した人の、孫かな。
「それにしても驚いたわね。白いかぼちゃが売っていたなんて」
「そうだね、白いかぼちゃなんて、珍しい! すごいよね!」
え?
すごい?
ぼくが?
そんな風に褒められるのは初めてです。正直、ぼくは今、戸惑っています。
「白いかぼちゃはね、甘くておいしいのよ。それに体に良いのだから、感謝して、残さず食べましょうね!」
「当たり前じゃん! だっておいしいもん!」
おいしい?
ぼくが?
本当に?
おばあちゃんと、孫の男の子は、ニコニコしながらぼくを食べてくれました。
それにぼくは、とても嬉しくなりました。生まれてきて、こんなに幸せな気分になれたのは、初めてです。
ありがとう。本当にありがとう。
ぼくをおいしいと言ってくれて。
ぼくをおいしい料理にしてくれて。
そして、そして。
「ごちそうさまでした!」
ぼくをきれいに、全部食べてくれて。
たった今ぼくは、やっと好きになれた、白いかぼちゃの姿ではなくなりました。ぼくを食べてくれた、おばあちゃんと孫の男の子のおかげです。
ぼくはこれからは、二人の体の中で、素晴らしい栄養となります。そして二人が、これからもずっと元気に過ごせるように、一生懸命がんばります。
白いかぼちゃ 卯野ましろ @unm46
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。