防衛歩行の心得

稲生葵

歩行者優先は欺瞞に満ちた建前である

 本文書は我が国の次代の王に贈る遺産である。ついでに、ヒトへもお裾分けしようという事で、WEBにアップロードする事にした。

 しかし、本文書はヒトにとって大した価値を持たない。実に不思議な事だが、こうした物は届くべき相手に届かず、既に満ち足りているところに集まるのである。そして、仮に届くべきところに届いたとしても、その時は受け入れてもらえないのだ。


 閑話休題。まず土台作りから始めよう。

 日本国の交通ルールには欺瞞と矛盾がある。

 例えば、電車は自動車より優先される。何故か? 電車はレールに沿って進むので回避運動ができず、車体が非常に重いために、止まろうとして止まれるものではないからだ。これは合理的であり、鉄道には接近しないように柵が設けられていて、交差点では警報機と遮断機が電車の接近を教えてくれる。電車は急に止まれないという現実に即した規則と、設備がある。

 しかし、自動車と歩行者では歩行者が優先される。歩行者に対して気を使ってもらわないと、いつまでも歩行者が道路を横断できないからと、こんな規則になったのではないかと思うが、自動車だって急に止まれない事をキレイサッパリ忘れてしまっている。こういう守れない規則は、あっという間に骨が腐って形骸化するので、こういう規則を作ってはならないのだ。

 自動車が時速60kmで走行している場合、道路、タイヤ、車重、運転者等の状態が理想的だとしても、停止までに44m以上が必要になる。50mプールを想像して欲しい、あの端から端の距離があってさえ、衝突を回避できるか怪しいのである。にも関わらず、道路は歩行者と自動車で共用であり、歩行者が容易に自動車の目の前に飛び出す事ができるようになっている。

 柵も何もなく、あったとしても細切れで、交差点には自動車や歩行者の接近を警告するシステムも何もなく、車道のすぐ側に家を建て、そのうえ塀で歩行者の存在を隠している。しかも、規制速度を無視して、どこでも時速60~80kmで走行しているので、歩行者が飛び出した場合、衝突は回避できないと考えて良い。

 さらに言えば、自動車は追突を回避するために減速ができず、左右にも動けない、実質的にレールの上を走る電車のような状態に陥る事がままある。鉄道関係の規則と設備設計をした時の思想は、どこに行ったのだろう?

 歩行者を優先する事など、2017年の現状では不可能なのだ。歩行者の優先を達成しようとするならば、自動車を改造して即座に停止できる速度しか出せないようにするぐらいしかない。あるいは歩行者優先という欺瞞に満ちた建前を捨て、歩行者保護のためにインフラを整備するかだ。

 いずれもあまり現実味はない。自動運転車が鉄道と同様の扱いになればあるいは、と言ったところだろうか。

 歩行者優先という欺瞞に満ちた建前を信じて道路に出る者は、遠からず死ぬと考えて良い。重度の後遺症を受けて生き残ったとしても、相手が無保険車で、まったく何の補償も受けられないという可能性もある。

 そんな奴いないだろうと思ったら、この機に考えを改めて欲しい。任意保険の対人賠償加入率は2015年時点で74.1%(県によっては60%未満)である。4回交通事故にあったら、1~2回は無保険車という計算だ。(日本損害保険協会ホームページより)

 昨今は、いつでも一定数いる「ながら運転」「酩酊運転」「整備不良車両」だけでなく――そう、いつでも一定数いる。例えば飲酒運転の検挙数は10年ほど前の万単位でこそなくなったが、ここ数年は5000から微減しているだけだ。あれらは、いつでも一定数いて、あなたとの不運な出会いを待っている。罰則の強化による根絶は幻想である。さらに言えば、この数値は検挙数だから警察の目に留まった数である。何も起きなかったり、検問をすり抜けたりしたものを含めると果たして何件ある事か――反射神経の衰えた高齢運転者もおり、予算の不足から道路の整備不良という問題も起きて、自動車の危険性は、増しつつある。

 歩行者は「歩行者優先は欺瞞に満ちた建前である」事を理解し、「運転者に気付いて止まってもらう」という事を、期待するべきではない。


 長くなったが、防衛歩行の理念は「歩行者優先は欺瞞に満ちた建前である」という理解を土台として立脚するので、ご容赦いただきたい。

 土台ができたところで、早速、自動車に轢殺されないための知恵の解説に移ろう。

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