なんて素敵なユメの世界

@naoriino

序章

 あるところに男がいた。

 小さい頃からの夢を才能不足と諦め、好きだった女性を自信が無い為に何もせずとも諦め、諦めが板についた人生を歩むうちに、大学への進学やたった一度の親友との喧嘩だけで、人間関係すら諦めてしまった男がいた。

 今日も今日とて、変わり映えのしない一日を終え、男は眠りにつく。

 そんな男だが、一つ、心に秘めたる望みがあった。

 透明人間になりたい。誰にも見られることなく、のびのびと生きてゆきたい。そして、この無味乾燥な日々に別れを告げることができれば、と。そんな妄想が男を今日まで生かし続けてきたのだ。




 翌朝、男は目覚める。

「ジリリリリリリリリリリリリリ...」

 寝ぼけ眼を凝らして、やかましい目覚ましを確認すると、手を伸ばしてそれを止めようとした、が目覚ましは止まらない。ため息をついて、布団を捲り立ち上がろうとした時に、男は気づいた。

 伸ばした自分の腕が見えないということに。

 それどころか自分が寝ているというのに、布団はベッドの上で平らに敷かれている。男は鏡の前に急いだが、やはり鏡の中に見知った顔も体も写ることはなかった。

ほっぺたをつねろうにも、つねる対象もつねるための手も作用しないのだからしょうがない。

「・・・・・・・・・・・・・」

 抱いた感情は恐怖か、歓喜か、何かを叫ぼうとしたようだが、当然声など聞こえるわけはない。

 いつのまにか目覚ましも止まり、静寂に包まれた部屋で男はしばらく考えたのち、家を後にした。ドアを通り抜けて。

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