第67話 天才を欺く即興戦術
「くそっ!どうなってやがる……あの蒼い奴、コッチを狙って——て……てめぇ何処行きやがる!俺と勝負しやがれっ!」
反面――突発的な事態により隊が乱された場合に、各々の癖や気性が仇となり……統率された正規軍に見られる、臨機応変な対応と言う面には不安を残す部隊構成なのだ。
『悪いけどあんたの相手をしてる暇はない!俺が今日立つべき場所は、ここじゃないからなっ!』
故に漆黒が背後で手回しした戦術の上に、部隊員と言う手駒を配置し――自分がそれを動かす立ち回りで、敵を寄せ付けぬ部隊戦闘を実現して来た。
だが眼前――
英雄が信を置く、仲間各自の持つ可能性と判断力――それを最大限に生かし、回線でのやり取りすら廃した阿吽の呼吸……それを見事に戦術として実現させた。
何より
仲間を手駒とし――自分を中心に、禁忌の蒼しか視界に映らなかった漆黒。
仲間を信頼し――その力を最大限に引き出した上で、部隊として事に当たった英雄。
それこそがこの戦いにおけるキーとなる。
『待たせたな、少尉!では我らが先の戦闘に引き続き、貴君の援護を勤めさせてもらう!』
「了解です!これより漆黒の機体を強襲します――バンハーロー大尉も、その機体……初の
『ふっ……言う様になったな、少尉。貴君こそ、あの漆黒に知らしめてやるがいい――』
『――我が隊の霊装の機体は一つではない……禁忌の蒼にばかりかまけている奴へ食らい付き――そのノド元を口食い千切ってやれ!』
勇者の霊機が次なる行動へ移る隙を生む、英雄の霊機が放つ
さらにその勇者の霊機へ追従するは、剣の旗艦格納庫より飛び出したる影――そこには英雄が待機を要請したエリート部隊が搭乗する、今の今まで極秘としていた機体が満を持して躍り出る。
そしてそれは当然、あの内通者の女性は預かり知らぬ戦力である。
正規軍用・量産型疑似霊装機――
ファクトリーにて納入される予定であった強化型の
現在の防衛軍における最新鋭機――本来霊装機のコアとなる【
しかし実質、ロールアウト所かテストもまままならぬ最新鋭の剣であるはず――それを議長閣下は全権を以って、この剣の旗艦へと託していたのだった。
赤き霊機を駆る勇者の行動を起爆剤とし、動きを見せた
そのまま機体を返す赤き勇者は、すでに発艦した最新機を駆るエリートを従え—— 一丸となり漆黒を強襲する。
「【ラグレア隊】、初お披露目がこの様な特異な戦場で済まないが—— 一働きして貰う!よろしく頼むぞ!」
『仕方ないわね大尉殿……!けどこの分は高くつくから後でキッチリ払って貰うよ!?……そうねぇ、例えば
「それは断る。」
『即答っ!?てか、早いよ!最後まで言わせてよっ!』
英雄の依頼へ含みのある返答を、堂々たる態度で返し——あまつさえ、明らかに一般人でも特殊な感情と好みを曝け出し……英雄に即答でバッサリ斬られる新規隊員。
蒼の機体内モニターに浮かぶは紛れもない少女——部隊内では蒼の
ヘルメット越しに覗く薄い緑——そのかかる緑が左右非対称に額を顕とした御髪と、大きく爛々と輝く碧眼が強気な態度で英雄を見返してくる。
――否、懇願して来る……。
『アシュリー……後で覚えときなさいよ……。』
『……っあ、お姉様そんな……。後でご褒美だなんて——』
『言ってないわよ!どんな耳してるの!?ちゃんと任務に集中しなさい!』
うらめしげに回線に割り込むは羅刹。
赤き機体のサポートを担う、
通信回線を開いた途端、特殊極まりない回線の応酬が蒼き機体にまで広がり——苦笑ながらも、その隊を率いて漆黒へ背を向けた英雄。
こちらはすかさず戦狼への軌道を取り、
漆黒がその作戦を
「——
そのタイムラグ——互いに目標を入れ替えた
英雄と勇者が、共に機体と一つとなりて互いを一瞥した。
それがあたかも、機体そのものが互いを一瞥したかの様に反応し——双方を掠めながら先と異なる敵へ強襲する。
「チッ!聞いてないんだけど、
『——五月蝿い、黙れ、その口閉じろ。私は隊長の命令しか聞かない。』
互いを罵りながらも、漆黒側——砲撃手のストライフ=リムと、狩人のハーミットが備える高集束火線砲を構え……赤き勇者の霊機へ二条の破壊をぶち撒ける。
——だが、その瞬間……英雄の采配が牙を剥いた。
「紅円寺流真・閃武闘術——守護の二式……
赤き霊機が突き出す右腕から散布される
そして機体を包むそれが、高威力の火線砲を尽く宇宙空間内のあらぬ方へとねじ曲げる。
「なっ!?これ……は!?」
『ちょっと……まずい……。』
漆黒側——その強力な火線砲の一撃が無かったかの様に逸らされる事態は、漆黒と言う天才ならばいざ知らず……二人の支援機体を駆る隊員は想定の遥か外。
その刹那はまさに、エリート部隊の格好の餌食——
「くっ……この機体性能、想像以上――上等だ!英雄殿、
「了解です!
格闘少年もすでにエリート隊長が、自分に向ける期待の程を理解している。
故に彼もエリートと呼ばれる軍部の精鋭へ、臆する事無く返答した。
信を置かれたならば、答えて見せねばならぬ――少年は確実に、【
エリート隊が駆る三機の
初顔合わせでは未熟と侮っていたエリート隊長——しかし今の隊長はすでに、自分達がその背を守るに値す男であると認識している。
だからこそ——英雄が指揮するまでもなく、その背後の憂いへ強襲を掛けた。
そしてそれは、漆黒側の支援を担う二機の砲撃支援が無力化されるのと同義。
砲撃手と狩人の二機は砲撃支援前提で飛び出したはず――が、あろう事か太陽系が誇るエリート部隊との肉薄を余儀なくされたのだ。
その状況から生み出される事態——それは成長した赤き勇者と漆黒との一騎打ち……まさに格闘少年の独壇場である。
蒼き英雄が天才を出し抜く策——その全ての起点は、赤き勇者の恐るべき成長と可能性……漆黒の天才が、眼中にすら止めていなかった脅威をぶつけると言う点に集約されていた。
『あんたと話すのは初めましてだよな……ヒュビネット大尉殿!』
「……
強制外部通信——漆黒の砲撃をすり抜ける様に懐へ突撃……拳にて肉薄すると同時に、
大尉殿からの「かましてやりなさい!」との視線へ、したり顔の
短火線砲を盾とし……赤き霊機の拳を受け止めた漆黒は、驚愕——彼ですら全く想定だにしない存在に機体モニターを占拠された。
『俺の名は
「くっ……!」
赤き者の拳を弾き距離を取る漆黒——が、離れる所か纏わりつく様に腕部が絡まると……衝撃と共に漆黒の
肉薄した近接戦で最も威力を誇る八極拳の一撃が一流の格闘家のそれとなり、漆黒を強襲したのだ。
体勢を辛くも立て直す漆黒を見据え——静なる構えから量子論的な真空の宇宙を、大地の様に踏みしめた赤き巨人。
裂帛の気合いを宿した炎陽の勇者が——
救いし者部隊の——もう一人の最大戦力が……吠えた——
『あんた達が相手にしているのは、赤と蒼の禁忌——そして俺達……【
この時より……新たなる目覚め——舞い上がる炎陽の勇者が産声を上げた。
「ジーナ、無理ばかりで済まないな!戦狼との接敵はムーンベルク大尉に任せ……こちらは後方へ下がる!」
『はっ……はい!了解です!
赤と漆黒が激突を見るその後方——剣を模した旗艦と赤き巨人を強襲したはずの戦狼が、こちらでも想定だにしない事態で翻弄された。
三機の
しかし今、それらを駆るは救いし者部隊の新規フレーム隊——策略面において乏しい戦狼としては、隊長機の指示なしではもはや手も足も出ぬ事態であった。
「クッソがーーっ!こんなのは聞いてねぇって奴だろっ!?」
近接格闘専用として調整した
それこそ漆黒側が最初に楽園を襲撃した時と、間逆の立場へ立たされているのだ。
それでも……蒼き英雄の機体を主軸とするフレーム隊の強襲を辛くも凌げるのは、漆黒の部隊における個々の戦力が極めて高いという事を意味していた。
「ムーンベルク大尉!
戦狼の眩き
『ちょっ!?そんな機体で戦場に出てたの!?……流石は英雄様ねぇ——どんだけ無茶してんのよ……——』
『いいわ!任せときなさい……このアシュリー・ムーンベルクと【ラグレア隊】が、責任を持って対応――旗艦防衛に当たるわ!まぁ、元々それが任務内容だし!』
英雄が発した対災害用・超長距離大火力砲撃仕様——その言葉で新規編入された女傑も、驚愕で目を剥き呆れかえる。
彼女が呆れるほどに、対抗争鎮圧用としての災害防衛装備は無謀そのものであるのだ。
あるのだが——その無謀さえも、部隊に所属する仲間を信じきり……完全後方支援へ徹する事で不利を帳消しにして見せた英雄。
そして今後の憂いへの秘策——この状況から生み出される現実を武器とし、もう一つの策へ打って出る。
強制回線——強引に繋いだその先は眩き
『アーガス・ファーマーと言ったか……オレはクオン・サイガ——済まないな、敵対している中でこの様な通信を……。』
「っ……はあっ!?何だテメェ——何……っクソ……何考えてやがんだ!?」
女傑の指揮する新規編入フレーム隊と、英雄の蒼き機体の
そう——その困惑すらも策へと組み込んだ英雄が、戦狼へ……その闘志の本質へと刃を突き立てる。
『単刀直入で言おう……あんたはこの漆黒の部隊で飼われている以上——あいつを……格闘少年を超える事は出来ない。』
「……どういう意味だ、テメェ……——」
困惑を殺気に
鋭利な言葉の刃は、その戦狼の闘志へ……魂へ深々と突き刺さり——
さらに煽りを加える英雄が、戦狼——強き戦士と誇りを賭けて戦いたいと願う、アーガスと言う男の深層心理へ……決定的なる一撃を刻み込む。
『言葉通りさ……。
「っな……ん……!?……ざけんなぁぁぁーーー!」
仲間に絶大な信を置く英雄は——その自らが放つ言葉も武器に変え……そして漆黒の部隊における最大戦力の一角へ、これ以降へ及ぼす致命的なダメージを与えた。
だがそれは相手を
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