第68話 救いの女神達の戦場
最前線では
そしてその赤と蒼を守る二つのフレーム隊が所狭しと戦場を舞う。
当然この事態は
現状無いものねだりの部隊である――それは
それでも――災害防衛を生業とした
今後、
だが――それこそが、あの漆黒が弄した策の渦中であるとは……誰一人として気付く事はないのであるが――
》》》》
「
「うむ!同時に
「シャーロット機及び
禁忌の怪鳥が発した超エネルギーを集束させた破壊の訪れは、楽園外周に備わる複合集光ミラーパネル群へ大規模な損害を生んでいた。
ソシャールコロニーと言われる場所は、人類が
詰まる所、禁忌の砲撃が狙い——そして穿たれたのは、楽園に住まう民の生命線に他ならなかった。
「こちらシャーロット!3Dデータを確認した——これより要救助者有無の確認へ向かう!」
「クリシャ、遅れるなよ!これ程の破壊で負傷者が居ない訳はない—— 一分一秒を争う……行くぞっ!」
『了解です隊長!ウォーロック、及びレスキュリオ各機……続きます!』
今回の損壊状況は、
そして被害区画の性質上、修繕作業員が救助者となる事が確実であるここでは施設外——若しくは
その要救助者も最低限船外活動用の宇宙服さえ装備していれば、救助の可能性上昇が見込めるからだ。
救急救命艦における二隻の観測艦——遠隔誘導無人観測艦〈
『周辺宙域、3Dデータで確認!船外及び施設外において要救助者は確認されず……続いて損害が最も大きい集光ミラーパネル固定設備周辺を——』
「——……っ!クリシャ、着いて来い!2名確認した……バイタルイエロー——緊急レベルA!急げっ!」
ウォーロック少尉が損害宙域の確認を終えるか否かのタイミング——歴戦のオーラを纏う
同時にそれは、生存者が破壊の
隊長の鋭き声から逼迫する事態を悟る
『ウチのお嬢達が要救助者を確認した!ローナ君、これより〈
「ええ、こちらでも連絡を確認したわ!……では各艦、負傷者受け入れ準備……直ちにかかりなさい!」
『『アイ、マム!』』
負傷した要救助者有り——その報は、同時に救急救命最後の砦……〈
同艦を指揮する艦長であり……メディック部門を総括する医師であるエンセランゼ大尉が、
「ピチカはよく今回の状況を見て……そして勉強する様に!アレット——貴女はピチカを補佐に付け、自分の能力が必要になった場合は迅速に行動へ移す事!」
『分かったのだローナ!——ピチカはいりょーの現場で、シカト勉学にハゲむのだ!』
『む……了解です、大尉。ピチカ……よろしく頼むよ。』
『モーマンタイなのだ、リヒテン軍曹どのっ!』
続いて最後の砦を指揮する女医が指示を飛ばすは、この砦の精鋭にして二人の医療現場の未来——すでに剣の旗艦内でもマスコットとして板に付いたモアチャイ伍長……そしてこの医療艦で、小さなマスコットの同僚であるリヒテン軍曹である。
アレット・リヒテン——彼女は複合性の遺伝子障害により、両腕を欠損して生まれ……現在はその両方へ機械義手を装着する。
しかし不器用さが仇となり、力加減を誤る事で起きる物損が後を絶たず——力仕事で生計を立てるも実が実る事も無かった。
そんな中――医療現場で腕力を必要とする適応人材を探していた、
「アレット!力のお加減はオーケーなのだ?ピチカもお手伝いするから、アレットがんば……なのだ!」
「む……心強い。ピチカのお手伝いがあれば千人力……互いに頑張ろう、これが私達の
救いの女神が着艦予定の医療艦格納庫へ、負傷者受け入れのため颯爽と足を向ける純白の白衣を
腰まで届く深い艶やかな黒の御髪、その前髪は眉に掛かり……宴黙で少しキツめの双眸を、下縁眼鏡の奥にしまうリヒテン軍曹——本来であれば彼女の義手が起こす力加減の不備は、医療において致命的な事態を起こしかねない。
だがあえて麗しき女医が彼女を抜擢したのは、宴黙な軍曹殿の義手の力加減に対する不器用さ――そこに人と接する機会に恵まれない、彼女の境遇にこそ原因があると直感しての采配だった。
そして女医の直感は的中し、医療現場と言う最も触れ合いが重要な部署——それも力加減が負傷者への労りその物となる現場で、宴黙が服を着たとも称される彼女へ大きく変化を及ぼす事となる。
義手の扱いの驚くべき上達もさる事ながら——僅かながら、多くの患者との触れ合いを通し……労りを言葉に乗せて人と向き合える姿を手に入れたのだ。
「ピチカちゃん、アレット軍曹——こちらは準備出来ております!格納庫の減圧を開始しますので、小待機室でお待ち下さい!」
「む……了解した。ではタンカキャリーをこちらへ……バイタルイエローであれば即座に手術の可能性がある。
「アイ、マム!」
アレット達からも下部に属す医療艦隊員は、宴黙な軍曹の指示に復唱——速やかに行動へ移す。
そのまま小待機室で、救いの女神から渡される命の
****
「くそっ……痛ぇ……。ちくしょう……——」
『大丈夫か!こちらは【
穿たれた集光ミラーパネル群固定設備——奇しくもそこへ定期点検に訪れていたミラー整備員が、破壊の訪れに巻き込まれていた。
しかし、モニター上ではバイタルがイエローに傾くも——はっきりとした意識を確認し、
必要以上に刺激した結果、パニックに陥るのを防ぐためである。
「クリシャ、この区画は未だ熱源が
『了解です、隊長!ウォーロック、これより負傷者の確保に当たります!ベナルナ……シャクティア、私のサポートを!ルッチェ、ザニアは隊長の補佐に回れ!』
『『イエス、マム!』』
相変わらずの危険度が高い任を自ら引き受ける、小さな救いの女神——彼女の背を追う者代表の
合わせて反応した隊員二人も、最新鋭船外活動服の補助スラスター噴射と共に……救急救命の七つ道具を内包したポッドを引っ提げ救助者の元へ向かう。
設備周辺は大半がエネルギー光の余波被害で爆散し、大気循環設備や重力制御装着がイカれていた。
要救助者達が設備内へ打ち付けられたのは、重力制御を解除した船外活動前後状態であったため——
それが万一通常生活空間状態で作業を行っていれば、船外活動服未装着の身体は宇宙へ吸い出され――僅かな時間で死に至る。
無酸素及び内外気圧差による細胞への致命的なダメージと……マイナス270℃に達する極低温の宇宙空間での生存は絶望的であった所――まさに不幸中の幸いとも言えた。
「大丈夫、もう心配ない……。よく落ち着いて待機されました——これより我々があなた方を軍医療艦へ——」
救いの英雄の姉が、雄々しき女神で
対象になった熱源にて、エネルギーライン異常による温度上昇を確認していたからだ。
通常の
直感が……歴戦の猛者である救いの女神を突き動かしていた。
そこより離れた要救助者二名が
その場は重力制御が失われた場所——ただの救助ですら困難なそこへ、救命道具ポッドを手繰り寄せメディカルチエックに入ろうとした。
それを見た救いの女神の妹が、荒振る剣幕で部下を
「何をしているの!この状況ではまずライフリング・ケーブル装着が優先よっ……手順を踏み違えないで!」
「……っ!い……イエス、マム!」
ライフリング・ケーブル——部隊が救助や宇宙船外活動で使う命綱の類。
船外活動に無くてはならない、金属製外殻へ張り付く電磁式ケーブルであり——宇宙空間での活動中は文字通り命綱となる。
無重力空間に於いて……一度加速運動を始めた物体は、遮蔽物がない限り初期加速度を保ったまま無限の等速運動を続け——やがて宇宙の深淵に飲まれる事となる。
無重力世界の法則によって訪れる事象を的確に理解し——最も危険とされるリスクを低減する……それは救急救命隊員の任務にとって基礎中の基礎。
その手順を一つ間違えば——救助者諸共、救急救命隊員さえ命の危険に晒される。
救いの英雄と呼ばれた姉の背を、常に追い続ける救いの女神の妹は—— 一瞬の手違いも見抜き、ライフリング・ケーブルを救助者……そして二人の部下から自分と言う順で装着して行く——
直後——その判断が決定的な命運を決める。
救いの女神の姉が雄々しき女神で調査中であった区画が、異常高熱を発すると——
突如として爆散——辺りへ無数の金属片が、超加速された砲弾の様に飛び散った。
「くっ……!?」
女神の妹は、正に間一髪——自分のライフリング・ケーブルを繋ぎ終えた直後……爆散した区画の圧力で弾かれるも、外殻に張り付いたケーブルでその場から吹き飛ぶ事は免れた。
同時に、その爆散した区画で作業に当たっていた姉へと視線を飛ばし――
「お姉様っっ!」
任務の最中、この様な事は幾度も経験しているであろう救いの女神の妹——その彼女でさえも、姉が危険に巻き込まれる瞬間は慣れるものではない。
姉の安否を確認しようと上げた声は、任務中……零せば何時もの叱咤が飛んで来る、親しき姉を呼ぶそれで叫んでしまい——
『……ガッ——ザ——かも——……バカ者!任務中はあれ程、私を隊長と呼べと言っているだろう!……こちらは大丈夫だ——私より救助者の心配をしろ!』
雑音に塗れる姉の声に安堵する女神の妹も、やってしまったと目を見開き……姉への謝罪を述べようとしたが——姉はその妹へ、本心である賞賛を被せる様に贈った。
『……だが今のは正しい指示だ!ケーブルは何においても最優先——よく判断した!』
女神の姉の機体が、爆散した隔壁を防御シールドで凌ぐそのコックピット内——偉大なる姉の賞賛で、紅潮した妹の笑顔が映ると……救いの女神達は速やかなる救助者搬送の為、危険と隣り合う損壊現場を後にした。
そして——その命の襷が最後の砦……航宙医療艦へと繋がれる……。
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