第22話 深淵を渡る者(前編)
【アル・カンデ】を出航してから程なく、【
通常クルーが立ち入る事のない展望区画にオレは来ていた。
船体のほぼ先端に近い事から、
いろいろあったが、自分はこうやってこの
暗き
もしこの世界に一人絶望の中取り残されたら、人は
そのことを改めて肝に
「まあ、どうなさったのですか?こんな離れた区画で――今皆さんは、あの格闘少年様の自己紹介中の様ですよ?」
不意に背後で可愛らしい声が響く。
声の主は技術管理監督官殿――
――けど、自分は知っている――そもそもこんな区画に、意味も無く監督官が出入りする訳がないから。
「ここはオレ以外誰もいないよ。――無理にその人格を取る必要もないんじゃないか?」
自分の知る姿の者へ
残念ながらその者との面識は長い――引き
その内に何か親しい友人の様な感覚が芽生えたのを覚えてる。
本当なら、自分の様な者が
「ふむ、そうじゃな……。まあここなら
先ほどまでは普通の空気感――突如として膨れ上がる
ツインテールの監督官であった者が、別の人格に取って代わった様に口調を変える――いや、これが彼女の本来の姿。
監督官と言う人格は別に存在しないという訳ではなく、そちらも必要に応じて姿を現す。
ただこの姿――【観測者】の姿を見せるのは、ごく限られた人間にだけらしい。
「マンションに現れた時に独り事で言ってたな。けどその姿だったから、一瞬分からなかったよ……。」
「いたし方あるまい。
オレと親しげに話す少女は【観測者】――その正体は人類の行く末を管理する存在、リヴァハ・ロードレス・シャンティアー。
彼女が言うには、元々人類に啓示を与える赤き蛇【リリス】であるとの事だが、それは地球は地上にある宗教的な書物の一説で
その彼女が物質界――低次元界と呼ばれる3次元以下の場所で存在するために、媒介として【
――そもそも、何故そんな高次の存在が3次元にわざわざ現れる必要があるのかは、世界の状況が関係しているとの事だった。
「あんたが、この艦の監督官に姿を変えると言う事は……オレ個人と言うよりも、この艦――【
予想はしていた――
必ずそこに関係する者が長期的な視野でも、何かしらの動きに巻き込まれる――大局的に見れば、
「ほほう?やはり視野の広がりが大きくなっておるのう。――ならば目覚めも、それほど遠くはないようじゃな。」
まだその時は、彼女【観測者】が言う≪目覚め≫の意味をよく理解してはいなかった――が、それこそが自分に課せられた途方もなく大きな
再び歩き始めたばかりのオレには想像すら出来なかった。
「あまり長時間、無意味に席を外す訳にもいかない。一旦皆の所に戻るが――あんたはここに?」
「ああ、
長大な艦内ゆえ、直線距離が長い大通路は貨物車両での移動が主となる。
そして車両終点の居住区画付近まで、オレが
》》》》
「始めまして!先の作戦では皆さんのサポートも虚しく……敵部隊からの猛攻に耐えるのが精一杯だった、
格闘少年が多くのクルーの前――聞き方によればなんとも
ここは大プライベートルーム、【
ともすれば、大パーティー会場にも変貌しそうなほどの大ホール。
そこで
――しかし、そこにいた者は
絶体絶命、その中で頼みの蒼き英雄が間に合うまで、決して砕ける事無く敵の攻撃を全て受けきった最強の盾――少なくともここにいる、【
そして守られたのは彼らクルー――どこに少年を責める意味などあろうものか。
少年が自らを
「よっしゃ!格闘少年の、ちょっと
さっそくその自重する少年を
整備長の
「ぬ……ぐおう……!?
「ああ~ごめんなさい!あなたの足が目に入らなかったわ~。」
どっ!と笑いが
何より格闘少年が搭乗した赤き機体には、この大尉も同乗していたのだ。
彼の操縦の未熟を
「さあさあ皆、格闘少年君の自己紹介も終わった事だし、ここは一つ歓迎会といきましょう!」
歓迎会というフレーズは決して冗談ではなく、C・T・Oのメンバーが伝統的に行う行事である。
大ホール急設の裏には、パーティー会場に変貌しそうなのではなく――文字通りパーティー会場に変貌させる目的があったのだ。
その証拠にクルーの前に並ぶテーブルには、所狭しと料理の数々が並べられる。
ただ、この任務の重要性や危険度を考慮し、いつもよりは簡素に食せるクイックフードをメインとしていた。
それは緊急時、それらを電光石火で片付けせねばならぬ、料理班への配慮も兼ねていた。
流石に時と場所は
「飲み物は渡ったかしら?それではこの航海の安全と、
「「かんぱ~~い!!」」
宇宙は
少なくとも、時は
格闘少年が
「あっ!サイガ大尉、これ飲み物です――さあさあこっちへ!」
戻った英雄を見つけるや否や、同じく蒼き機体に搭乗したブロンドの少女がパタパタと走り寄り飲み物を手渡す。
まだ幼さの残る手で、英雄の服の袖を掴むと半ば無理矢理にメインの料理が並ぶテーブルへ迎える。
少女としてはその英雄がこの場にいる事を誰よりも喜び、誰が賞賛せずとも自分だけはそれを暖かく迎え入れる――そんな気持ちが
「……相変わらずだな……この何でもパーティーへ結び付けるノリは……(汗)」
恐らく蒼き英雄もその片鱗を、8年前以前にも体験していたのだろう。
未だに続けられる伝統にいささか呆れ顔ではあるが、自分はそんなクルーの気兼ねなさに救われたのだろうと感じ、あえてその輪に足を踏み入れた。
「あら、皆さん楽しんではりますか?ただ節度は守って頂けるとありがたいんやけどな~?――ああ、これはおおきに。」
時と場所を
あろう事かこの
それに気付いた、数少ないブリッジクルーとなる男性陣――各救済艦隊管制を担う優男、ロイック・フリーマンが管理者へ飲み物を差し出した。
「ちょっと!私らにはそういう配慮がなかったけど、
目撃した女性クルーから
ああ――背後で、女性陣のやっかみが聞こえてくる痛々しい惨状。
「あぁ~……この部隊――俺がいた部活なんて非じゃない……かも……(汗)」
この部隊は、パーティーの一つを取っても只事ではなくなる騒がしき集団である――その事実を目の当たりにした主役の格闘少年は、先が思いやられると乾いた笑いしか浮かばなくなっていた。
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