第20話 集まるは精鋭達



「オーライ、オーライ――よっしゃー!後はアルファフレームだけだ、ちゃっちゃと済ませるぞっ!」


「アイサー!」


 威勢の良い声が大型設備格納ソシャールへ響く。

 すでに出撃準備を静かに待つ旗艦【聖剣コル・ブラント】へ、両霊装機を運搬――固定作業にとりかかる。


「我々の必要設備も頼むぞ、軍曹!」


 威勢のいい軍曹が声の方に振り向くや否や怪訝けげんな顔で、声の主に文句を言い放つ。

「いやいやこれは大尉殿、いかんせん我々は【霊装機セロ・フレーム】専門――そちらの救済艦隊までは面倒見きれんなぁ!」


 軍曹にあからさまに突っかかられ、痛くご立腹の声の主は眉間にシワを寄せながら、ズイッ!と整備長へ詰め寄った。


「これはこれは軍曹殿、我らもれっきとしたこの【聖剣コル・ブラント】クルー ――しかも誇り高き救済部隊の花!この暁型第六兵装艦隊を取り仕切る、私工藤の言葉を聞けぬとは……、これは事ですな~!」


 軍曹に声を掛けた主は工藤と名乗り、階級は大尉と思われる。

 快活そうな表情に短く切り、立ち上げた前髪。

 救済部隊と称した部隊制服は、救護のイメージカラーとなる白を基調に赤の装飾を配す精錬な姿。

 しかし、皆が呆れの表情と共に遠巻きに――遠い目で見ている事からも確信出来る。

 この二人――仲が悪い……。


「――ああ、始まりましたな~。」


「始まりましたね~。」


 整備長であるマケディと工藤と名乗る男のやり取りに、不安の種が・・となげきが聞こえるほどゲンナリする整備T達。


「ねえねえ、船の中で着る普段着に制約とかあったっけ?――最近買ったばかりの服がさ~――」


「あ……あの~グレーノン曹長?ウチら遊びに行くんとちゃうねんけど……(汗)――って、ピチカちゃん何してんねん!?それは……可愛い……(照)」


「オオ、ショウコ!これローナがクレタヌイグルミ!カワイイ?――なあカワイイ?」


 不穏な空気で、一触即発な整備長と救済部隊の隊長を尻目に、華やかな女性陣が外部ソシャールへ集合する。

 伸びた【聖剣コル・ブラント】へと繋がるエスカレーターを降りた二人の女性プラス女児一人。


 長身に小麦色の肌、薄いブロンドヘアーの女性はテューリー・アサミヤ・グレーノン。

 地球は欧米系のさっぱりした性格で、男女問わず人気の彼女――しかし、さっぱり過ぎて任務の状況理解がとぼしい所を、日本は関西系なまりの少女が一先ず突っ込み、隣りあった黒人系の十代に満たない少女を――いやそのヌイグルミを見て恍惚こうこつとする。


「――ローナさん……なんちゅう物をピチカちゃんに――ああ、それウチも欲しい……。」


 関西系なまりの少女は翔子しょうこ・ヴェシンカス――遺伝子異常を持つ彼女は、ボディ・リスクレベル―B断定された身体、右腕が肩より先で高性能な義手を装着する。


 遺伝子異常という物と常に付き合わなければならない宇宙人――彼らにとってそれは日常であり、日常を不自由なく快適に過ごすためのあらゆる設備や道具が要となる。

 【フリーダム・ホープ・A・Cアカツキ・コーポレーション】において、それらの製品製造のほとんどが視野に入れられており、身障者達が自ら開発し製造――そして多くの不自由な身体で辛い日々を送る民を救済している。


 特に軍部と協力体勢にある民間協力団体軍事部門では、身障者志願隊員が多い事を利用し製品の試験運用なども行う。

 当然そこに差別的――または人権的な侵害事例が生じた場合は、それを起こした健常者が優先的に罰せられる。


 宇宙で生きる者にとって、身障者を汚す行為は人としての生活権を失うと言っても過言ではなく、それが当たり前の世界である。


「こらっ!後が詰まってんだけど……!」


 少し気だるそうなショートヘアーの女性――トレーシー・ミューダスが動かない少女達を急かし――


「さっさと進みなさいな。ピチカも――それは後で楽しみなさいと言ったでしょうに。」


 黒人の女の子、ピチカにヌイグルミを手渡した張本人――その姿を見て一部の手が空いた整備クルーから口笛が鳴り、余裕の笑顔で手を振り返す女性。

 肩に掛かる薄い桃色の髪――出る所は出て、締まる所は締まる白衣をたなびかせたその姿。

 上から下まで、女性に必要な全てを持ちえたかの美貌を持つ女医――ロナルファン・エンセランゼ大尉がピチカをたしなめると、少女は喜びと共にその女医に抱きついた。

 どうやら母性まで持ち合わせた完璧女性である。


「ほほ~これはこれは――噂に名高い旗艦【聖剣コル・ブラント】。間近で見られる日が来ようとは……!」


「……トレーシー軍曹が止まるなと言った……。あなたもそこに止まるのは迷惑。」


 思わず機械オタクなパワーが開放された、ベレー帽とそばかすがアクセントのメガネっ娘、機動兵装・武装・火器管理担当――宇津原シノ少尉が立ち止まると、愛想はないが心根は優しいと評判の、キレッキレの眼光を持つ看護士アレット・リヒテン曹長がボヤキと共に強引に続く。

 彼女はボディ・リスクレベルA断定――両腕が義手である。


 続々と集まるC・T・Oを代表する各オペレーター達。

 次いで暁型第六兵装艦隊に関わる面々も訪れ――定刻が近付くにつれ和気藹々わきあいあいであった各隊員にも、次第に緊張の糸が絡み始める。


 皆に遅れてやって来た【霊装機セロ・フレーム】のメインパイロット二人も、各々パートナーと共に参集――いよいよ作戦決行の時間が近付く。



》》》》



「中まで凄い!とんでもないっすね……!」


 搭乗の手続きを外部連絡ハッチ前で済ませ、続々と旗艦へ搭乗する隊員達。

 その【聖剣コル・ブラント】に搭乗する志願者一団の中、全てが始めての格闘少年は見る者全てに驚きを隠せない。


 【アル・カンデ】災害防衛軍C・T・Oに所属する軍事艦船、多くは軽・重巡宙艦が占め木星内で活動するために運用される。

 災害防衛用にカスタムされたA・Fアームド・フレームを遠隔運用するためのO・Mオート・マニピュレートとしての役割、そして万一災害が発生した際――救助レスキュー及び救命メディカルを統合した救急救命部隊を配属する。

 C・T・Oの構成が、軍隊と民間協力隊からなる所以ゆえんでもある。


「私も見るのは始めてね……。さすがSSSスリーエス級の軍事機密扱い――これを知ったらいつき君も無事では……」


「えっ!!?いやそれ、マジ――」


「冗談よ……。」


 盛大に盛り上がる格闘少年をからかう様に、綾奈あやなは軍事機密ネタを吹っかけ――少年をいじり始めていた。

 急遽きゅうきょ彼をスカウトしてからこちら、ゆっくり会話も出来ず仕舞い――これから共に歩むパートナーと親睦を深めようとしていた大尉。

 その矢先――復活した英雄に美味しいところをさらっと強奪され、その不満から少年をいじり倒している様に見えなくもない。


「それにしても、暁型第六兵装艦隊まで配属されるなんて……。でも、どうやって運用するんでしょう?」


 赤き機体のパイロットらの後方――続いて歩く蒼き機体担当のジーナが頭をひねる。

 それもそのはず――今回の作戦は部隊に対して旗艦一隻とフレーム隊、そう作戦立案所にまとめられている。

 彼女が疑問を口にしたは考慮されていない――が、艦隊運用における相当数の隊員が集合していたのだ。


 疑問が浮かぶのも当然の、多すぎる人員配属である。


いずれ分かるさ。それより急いだ方がいいな――想定していた人員よりかなり大所帯だ。ひとまず、中央通路から向かう大ブリーフィングルームへ――。」


 旗艦【聖剣コル・ブラント】の全長は400mを越え、全幅で90m超に達する。

 艦の本体から伸びる、巨大スラスター数機が並ぶ前後に長大なウイングを含めた幅である。

 しかしその全容―― 一隻の艦艇としては、巨大すぎる。

 本来太陽系内で航宙艦を運用する際、太陽及び木星の超重力を振り切る機関出力――対して加速力や負荷低減という点とのバランスを考慮し、無用に巨大な艦艇は敬遠される。

 フレーム搭載艦と過程しても、その巨大さは過度といえる程だ。


 その巨大さも相まって、大ブリーフィングルームまでの移動時間もそれなりに必要とされる。

 航行運用設備を含めた、一般居住スペース全体は艦の大きさに比べればかなり小さく思えるが、上下階層の存在をかんがみれば大型のショッピングモールクラスはあると推定される。


「――すでに皆到着しているみたいだな。」


 クオンがパイロットらを席へとうながす。

 【霊装機セロ・フレーム】パイロットらがちょうど最後の志願者であろう――ブリーフィングルームに集まるは、先の防衛戦で活躍したC・T・Oの面々と今作戦を共にする、暁型第六兵装艦隊の精鋭。


 その大きな作戦室中央――すでに皆を待ちわびた、この艦の長となる男月読 慶陽つくよみ けいよう大佐――そして今作戦の最重要人物、ヤサカニ水奈迦みなか

 さらにL・A・Tロスト・エイジ・テクノロジー使用許可を受諾し、また作戦上の技術運用監視を努める技術監督官の姿。


「あれ?あの右隣の子――あの子もお偉いさんとか言う――」


 格闘少年の疑問をシッ!と、人差し指を口に当て制止する神倶羅かぐら

 少年も慌てて身なりを正し――そして始まる、極めて重要な作戦上の最終確認をしかと耳に聞き止める。


「少々予定時間より早いが――現在搭乗した者で今作戦参加者全員とする。――とは言え、正直C・T・Oですでに【ザガー・カルツ】の襲撃に対応してくれた者達、その殆どがこの作戦へ志願してくれている。」


「不甲斐無い軍部代表として、皆には感謝の言葉も無い――ありがとう。」


 そこに集まる誰もが思う――危険な非常事態である事は理解している。

 だが何より、自分達の頑張りとそこから生み出された成果を、正等に評価するこの月読つくよみという男だからこそ――協力を惜しまぬ思いで志願出来るのだと。


「ではこれより、各員の配属先を指示する。順次発進準備に取り掛かってくれ。」


 配属先を指示され、速やかに散っていく隊員達――その姿に指令同様、感謝の意と共にこれから訪れる試練への覚悟を思い、水奈迦みなかは勇ましき光景を見守る。


 これよりわずのち――【聖剣コル・ブラント】は救いし者セイバースの精鋭達を従え、宇宙そらへ――


 ――太陽が輝く火星方面へ向け、暁の出撃である――

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