第2話

 「寒くないか?」

 意識がはっきりとしたときには、いつの間にか違う場所にいた。

 そうか、私はまた違う人生を歩んでいるのか。いつまでこれを繰り返すのだろう。いつになったら、幸せな生涯を遂げることが出来るのだろう。

 絶望にも似た何かを感じ呆然としていた私の顔を、その人はそっと覗き込む。

「どうした?」

 よく日に焼けた身体に、がっしりとした体つき。短めの黒髪は、好き勝手に跳ねている、その人。

 薪が燃されている暖炉は、赤い炎を上らせながら私と彼に温もりを与えているようだった。何処か懐かしさすら感じさせる、温かな空間。

 彼は、椅子に座って毛布にくるまっている私の傍に、跪いている。

「……い、え、」

 その人の黒目は、酷く澄んでいて。私の返答に柔らかく微笑むと、そっと抱き締め、温もりを与えてくれた。黒水晶のような瞳だった。見るもの全ての心を洗ってしまうほど、綺麗な。強い意志の宿ったそれは、私の弱さが悲鳴を上げて逃げてしまうのではないかというほど、淀みがなくて。

 今回共に過ごす人がこの人ならば、私はこの人に好かれたい。愛されたい、大切にされたい、傍にいたい、と。流れ込むような、波が迫るような、大きな欲望。

 私が、初めて抱いた感情だった。

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