幽世綺譚(裏):花の色 - Flower Color

紬 蒼

とある川の、とある人々

 大木はしなやかな枝に満開の花を咲き誇らせていた。

 その下に女が一人、立っている。


「憐れな女よ……」

 男がそう呟くと、女は笑った。


「花は美しいかえ?」

 男は満開の花を見上げる。

 見事な花が咲き乱れている。

 美しい、と思ったが、男は黙っていた。


「木としての生を牢獄だと思ってるのかい?」 

 男は黙ったままであるが、女は一人で話し続ける。

「人になれたんだ。憐れと思うなかれ、だよ。美しい、それだけであたしは生きる。花は散るけれど、また咲きましょう。花は枯れるけれど、また咲きましょう。散る姿も枯れた姿もまた美しいと言わせましょう。それが牢獄かえ?咲けるだけ咲く、それが花ってもんさぁ」


 女はふっ、と掠めるように笑んで消えた。

 男はしばらくの間、そこで花を見上げていた。

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