ある新人物書きの友人に付き合う俺

葵衣

第1話

「今日の話は自信がある!」

ドヤ顔して言うその男を、冷たい目で見る。

「ほう。今日も、の間違いじゃないか?」

「それもそうだな! 俺はいつも自信に溢れている」

元気に笑う男は、俺の気持ちなんて微塵も分かっていないだろう。なんて鬱陶しい。

「さあ、読むがいい」

渡された紙束を不安気味に受け取ると、俺はオレンジジュースをそばに読み始めた。



舞台は中世ヨーロッパをイメージした世界。

魔法もなんでもあり。

そして今回のメインは勇者の剣。

ありきたりな事に、それは岩山に突き刺さっている。

それを抜き取ると、勇者になれる。

なんでも、特別なスキルがつくらしい。



「フフ・・・・・・ついに来てやったぜ。この剣を取り、俺様は地味な弓使いから勇者になる!」

緑の髪を刈り上げにし、マントで身を包んだ強気の弓使いは、岩山で大声で言う。

「理由が不純だな」

「なに!?」

弓使いの背後から、凛とした声の女現れた。

夕日のようなオレンジの髪を編み込んだ女性。あまり似合わない鎧を着ている。

背には大きな槍を背負っている。

見た目からも弓使いと同じぐらいの年だろうが、槍使いの女の方が大人らしく見える。

「まあ、私も依頼されて来たからな。お前と対して変わらないだろう」

「まあ! 謙虚な方ね。惚れちゃうわ」

いつの間にか、槍使いの横には赤のセミロングのの髪、町娘の衣装を着た可愛い女。

「譲って差し上げたいけど・・・・・・言い値で買ってくださる?」

声のトーンが低くなり妙な違和感を感じさせた。

「売る考えがあるあなたも不純だな」

「全くだぜ」

女はえへっと自分で自分の頭を小突いた。

「それもそうねぇ。じゃあ、純粋な子に来てもらいましょ?」

「純粋なって・・・・・・どこにいんだ?」

「気づいてないのか? さっきからそこの岩陰に一人いる」

弓使いは驚いて岩陰まで走る。

「あ!」

確かにそこには、まだ幼い少年が丸まっていた。

「お前もあの剣を取りに来たんだな!?」

少年はパーカーのフードで綺麗な水色の髪と顔を隠す。ぐすぐすと声がするので、泣いているようだ。

「お、お前らみたいな奴にゆ、ゆう、勇者は譲らないからな!!」

細い足で立ち上がり、泣きながらもしっかり自分の意思を示した少年に、女はそばに行った。

「かわいい〜。お姉さんが慰めてあげる!」

そう言ってギュッと抱きしめると少年は慌てて離れようとした。

「や、やめてよ! 男同士でもくっつかないでよ!」

少年がそう言うと、二人は目を丸くした。

「「男!?」」

声を揃えていう二人に、「心は乙女よ」とその女装男子は付け加えた。

弓使いは槍使いとその女装男子を交互に見ると口を開いた。

「その男の方がお前よりも女らしいなって、おい待てなんでそこで槍を構える」

「よっぽど死にたいらしい」

槍使いが弓使いに殺気を向ける。

外野二人は「あーあ」と言って知らん顔だ。

「悪かった・・・・・・」

ここは素直に謝ろう。そう思った弓使いの判断は正しかった。



それから問題は切り替わり、誰から抜くかを決めていた。

「そこは子供に譲ってよ!」

「甘えるな」

「ハッ、俺様からだろ」

「もう、公平にジャンケンにしましょ?」

そうして数十回のあいこと少年の駄々を終えて決まったのだ。


一番、弓使い。

「よーし、俺様からだ。見てろテメェら、読者にゃ悪いがここで終わりだ」

「おい、それダメな発言だろ」

弓使いはとんでもないことを言ったが、気にしていない様子で、剣を握った。

弓使いは緊張した面持ちで力を込める。

「フンッ!」

掛け声とともに剣を引き抜こうとした。が、

「くっ・・・・・・」

何度か力を込めるが、微動だにしない。

「退け、私の番だ」


二番、槍使い。

「こういうのは普通に抜けないだろう。少し角度をつけてだな」

そうして槍使いは顔色一つ変えず剣を引き抜こうとした。

パキンッ

「あ」

「お、折れちゃったよ!?」

少年は声を荒らげる。弓使いは呆然としている。

「あらぁ、力強いのね」

「一応、スキルは怪力Sだ」

女装男子は「なるほどねぇ」と言うと、槍使いから剣を取った。


三番目、女装男子。

「仕方ないわ。私がなんとかしてあ・げ・る!」

女装男子は折れた剣を合わせると、何やら呪文を唱え出す。

すると、剣の接合部が光りだし、最初と変わらない剣が存在していた。

「ふふ、こう見えても魔導士なのよ〜」

ウインクしてそう言う魔導士を、三人は口をポカンと開けて呆然と見ていた。

「人は見かけによらない。って知ってるか?」

「俺、今身にしみてるぜ」

その魔導士は「実は魔力スキルAなの〜」と楽しげに言っている。

「これ、本当に直ってるの?」

「もちろんよ」

自慢げに言う魔導士を横目に少年は剣に触れる。

「ホントだ。って、うわっ!」

「え?」


四番目、少年。

「ぬ、抜いちゃった・・・・・・」

全員、目が点になった。

「な、何でだよ! なんでこんなガキが!」

「そうよぉ!」

二人は口々に文句を言う。

槍使いに至っては、もう言葉も出ないようだ。

「あ、僕、スキル幸運なんだ」

少年は思い出したように言う。

「だけどよ! そう簡単に・・・・・・」

「いや、待て」

弓使いが言う言葉を、槍使いが遮った。

そして少年のそばに行きこう尋ねる。

「そのスキルのランクは、いくつだ?」

「SSだよ」

けろりとそう言う少年に、弓使いは掴みかかってきた。

「ふざけんな! なんだその嬉しいスキル! 俺様なんて、俺様なんてなあ!」

そこまで言って泣きそうになってる弓使いに、少年は無邪気に聞いた。

「どんなスキル?」

弓使いはその目の輝きに負け、渋々話した。

「に、逃げ足のBランク・・・・・・」

「ぷっ・・・・・・あっはははははは!」

一同、大爆笑。

弓使いは顔を真っ赤にして「笑うな!」と叫ぶ。

まだ笑いが冷めない時、

「Gaaa!」

四人の背後からモンスターが出現した。



「わぁぁーーーーー!」

少年は驚き走り出した。

弓使いは持ち前のスキルで逃走しようとする。

槍使いは、嘘っぽく怯える魔導士の前に立ち、臨戦態勢だ。

いつでも来い。そんな状態だったが、モンスターは突然態度が変わった。

どこからか座布団をだし、お茶をたててそれを飲む。ついでに和菓子まである。

嫌な予感がし、二人は辺りを見渡した。

すると、背後には逃げた筈の弓使い。

どうか、この勘が外れますように。

全員そう祈ってから、現状を確認した。

そこには、そう、そこには、

ゲームオーバーの文字が出ている少年がいた。



「なんで・・・・・・?」

堪らずそう口にする弓使い。魔導士はゲームオーバーして公開されている少年のステータスを読む。

「あ」

「どうした?」

「スキル、変わってるわ・・・・・・」

その言葉を聞いて、二人もそれを見る。

確かに、幸運SSのスキルが、勇敢A+に変わっている。

「剣を取って、スキル変わったぜ。と」

「そしてそこをモンスターに突かれた」

「で、剣は主とともに消滅・・・・・・?」

三人はわなわな震えながら、こうツッコミをいれる。

「「「納得できるかーーーーーーい!」」」



ようやく読み切り、俺はふぅ、と息を吐いた。机の上のコップに手を伸ばしたが、もう中身はなかった。

「どうだ?」

「ああ」

俺は席を立ち、自慢げに見るこいつのそばに行き、

「こんなRPGゲームあるかぁーーーーー!」

とその紙束を投げつけてやった。

「むぅ、お前は辛口だな」

頼む。誰か、こいつをなんとかしてくれ。

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