幽世綺譚(裏):言の葉 - Fragment Of Words

紬 蒼

名前

※ バンシー:死を告げる赤い目の女の妖精



 例えば、占い師は未来を見る。

 運命とかあらかじめ決められた未来を。


 例えば、自分の一言でその未来を変えることができたら?

 天気予報のように、明日雨が降ると言えたなら、傘を用意して濡れることから逃れられる。

 明日洗濯しようと思っていた人は、今日のうちに済ませてしまうことだってできる。


 例えば、道を行けば、必ずどこかで分かれ道と出会う。

 ただ真っ直ぐに、ただひたすらに続く道はどこにもない。

 どこかで枝分かれし、どこかへとまた続いてゆく。

 時に行き止まることもあれば、巡り巡ってまた同じ場所へと戻ることもある。

 けれど、先へ進もうとすれば、また別の道からどこかへと進むことになる。


 例えば、右を選んで進んだ時、もし、左を行っていればどこへ行っていたのか、と。

 どんな風景と出会い、どんな人と出会い、どんなことが起こっていたのか。

 逆に、出会ってきた風景や人、経験したことは、どうなっていたのだろうか。


 例えば。

 そう、例えば。


 今はただの想像だけ。

 誰がいつ死ぬのか。

 それを知っててただ見てるだけはつまらない。

 死ぬことを避けられるなら避ければいい。

 避けられたなら、きっと悪いことは起きない。

 悲しむ人がいなくなるだけだ。


 雨が降ると分かっていれば、服は濡れないし、風邪も引かなくていい。

 右を行って転んだなら、左を行けば傷を作らずに済んだかもしれない。


 たった一言。


「明日は近道せずにいつもの道を帰るんだよ」


 そう言うだけで、世界は変わる。

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