臀身戦士 ケツワリオン
じょう
プロローグ 僕らの割れた世界
2年前のあの日、僕達の世界は前触れも無く2つに分断された。
北極点から地球を縦断する白いオーロラは、直線状にあった自然や建造物、そして人間たちを2度とこの世には戻さなかった。失くした家族を求めてオーロラに飛び込んだ人たちもまた、2度と戻ってはこなかった。でも、後にホワイトヴェールと呼ばれるオーロラがもたらしたのはそれだけではなかった。
テアーズ、引き裂くもの、と名付けられた奇妙な生命体群。ホワイトヴェールの内側より現れた怪物たちは、目に映るものを全て両の腕で引き裂いた。それが木であっても、鉄であっても、人間であっても、まるで紙でできているかのように苦も無く引き裂いて見せたのだった。
テアーズはホワイトヴェールからそう遠くへは離れられない。各国はホワイトヴェールから1キロの地帯を緩衝地帯と設定し、オーロラに沿うようなフェンスを設け立ち入り禁止区域とするような政策を取らざるを得なかった。
それでも、この半分になった東東京では、テアーズの被害は完全には無くならなかった。続発する被害を受け、東東京保安機構はテアーズに対抗できる唯一の方法を作り上げることに成功した。それが――
―――――――――――――――――――
「ジャーッ!」「きゃあーっ!」引き裂かれたフェンス。月は雲に隠れ、白い蛇頭の怪物テアーズは、今まさに女性を餌食にせんと両腕を掲げていた。恐怖に見開いた女性の目は、飛び込んできた巨躯に奪われた。
「ぬうんッ!」「ジャーッ!」蹴り飛ばされ、ビルに激突するテアーズ。飛び込んできた男は女性を守るように前へ進み出た。
「さあ、さがりなさい」男の背中は力強く、戦闘の意気に満ち満ちていた。「は、はい!」女性が慌てて立ち上がる。雲の切れ目から漏れ出た月光が男を照らし出す。男はシャツを脱ぎ捨て、真っ赤な褌と鍛え上げられた大臀筋が露わになった。
「テアーズ……このオレがいる限り、この街の人には指一本触れさせはせん!」男はベルトのソケットから白銀に光るシリンダーを取り出し、己の褌と臀部の間に挟み込んだ。「ハァー……ッ」フレームめいた幾条ものレーザー光が男の肉体を囲む。男は右腕を掲げ、正中線に沿ってゆっくりとおろしてゆく。胸の中心に腕が来た瞬間、男は拳を握り胸に引き寄せ叫んだ。
「――臀身ッ!!」
パキッ!小気味良い破砕音を立て男の大臀筋がシリンダーを割る。シリンダーからあふれ出した白銀の液体は、レーザーフレームを伝い男の体を覆ってゆく。そして次の瞬間には白銀の鎧を身にまとった、超常の戦士が現れていた。
「オレは人々を守る白銀の騎士!臀身戦士・ケツワリオンシルバー!」
―――――――――――――――――――
これは、割れた世界を取り戻す、僕たち臀身戦士の物語だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます