人生最後に見る君(短編バージョン)

Re:over

第1話


東の方向にある太陽は温かい日差しで天地を穏やかに包み、人の未来を照らしているかのようだ。


高校の入学式に向かっている僕は急な坂......。通称「潮見坂」と呼ばれる坂を上っていた。


星樹(ほしき)高校へ辿り着くにはこの坂を上るしかない。だから、同じ目的地を目指し共に歩く生徒がいくらかいる。


校門の前に着く頃には息を切らしていたのだが、それは単なる僕の体力不足のようで、隣にいる女子生徒は平然な顔をして校舎内へ入って行った。


「入学式」と書かれた板に手を置いて息を整える。


春休みの間に体力落ちたかな......と春休み中の怠惰さを痛感しながら目の前にそびえ立つ校舎を見上げるとその大きさに圧倒され、一瞬、息をするのを忘れてしまうほどだった。


この校門を越えた先には出会い、感動、笑いが待っているに違いないと胸が高鳴る。


しかし、その興奮とはうらはらに高校生活をうまくやっていけるかどうか心配でもあった。


こんなところで怖気づいてはいられない。猛勉強して手に入れた「合格」の2文字が無色になってしまうし、県内で最も名高く、倍率も3倍近くあったのだから手の届かなかった人がいる前でなくともそれ相応の行動をしなくてはならない。


そんな進まなければという使命感の後押しされ、立ち塞がる不安や困難を振り払ってビシッと直立し、大きく深呼吸をして校門をくぐった。


校庭を一歩踏みしめるたびに体全身が震え、瞬きするたびに視線がさまよい、かばんを握る手から汗がジワジワ漏れ出す。


自分の意識を保つので精一杯で、気づいた時には他の生徒達の波に流されていて集合場所であるピロティに着いていた。


4階建ての校舎はピロティを覆い隠すくらいの大きな影を作っており、その偉大さを語っている。


頭上を翔ける飛行機を校舎に隠れるまで見届け、次は周囲に意識を向けると集合30分前にもかかわらずたくさんの生徒がおしゃべりを楽しんでいたり、ボンヤリしていたりした。


「さすが......みんな意識高いなぁ。5分前行動ならぬ30分前行動ってか」


さすが、県で1番の高校だけあって優秀な人が揃ってるんだなと感心していると見覚えのある金髪の不良っぽい目つきの人に目が止まった。


「練二(れんじ)じゃん!」


反射的に出た声は詫びる様子もなく柱にもたれて腕を組んでいる男子生徒の鼻ちょうちんを割り、近くの女子生徒達の会話を中断させ、ボンヤリしている生徒達を過剰に驚かせた。


金髪の少年は見た目に合わない恥ずかしそうな顔を浮かべる。


「なんだ、啓太(けいた)か......ったく、なんだよ」


そう言いながら僕に歩み寄る彼は頰を赤らめ、周りの目を気にしながら下を俯いている。


「久しぶり、元気にしてた?」


その一言で赤かった顔からいつもの無愛想そうな顔へと戻った。


「まぁな、ん?お前は元気そうだから聞かねーよ?」


「えー」


自分にも聞いてほしいという目線を送ったが、その行為は無駄に終わった。


「それにしても2年ぶりだっけ?」


啓太は練二と出会った中学1年生の春を思い出した。


「そうだな......3年も経つのか、早いな」


中1の入学式に向かう途中、車に気づかず横断歩道を渡ろうとした僕を助けてくれたのが練二だった。


その後、クラスが同じだったということもあり、よく喋ったりしていた。しかし、中2に進級すると同時に練二が転校してしまったのだ。


友達と呼べる2人の内の1人が彼である。


今回は違うクラスだったのは残念だが、星樹高校にいるとわかっただけでも嬉しい。


そんなこんなで過去の思い出にふけているといつの間にか集合時間になっていた。


クラスごとに整列して出席点呼が終わると入学式の入場が開始する。


大名行列のような長い列は体育館の中へ向かっていく。そして、中に入ると先輩達と親からの盛大な拍手と歓迎を受け、準備されている席に着く。


それから入学証書を受け取り、校長先生やPTAの話、先輩達の校歌を聞いて入学式は終了した。


それぞれの教室に行き、担任の先生と顔合わせ、3時を過ぎる頃にはやることが全部終わり解散した。


「啓太!」


教室を出た啓太は1人の女子生徒に呼び止められた。


振り返るとそこには左目の斜め下にある黒子(ほくろ)が印象的な......亜子(あこ)がいる。


彼女はある事件をきっかけに知り合ってそれから仲良くしてる同級生の子だ。


彼女は首を軽く首傾げ、微笑むと肩ほどある黒髪が揺れ、シャンプーの匂いがすぐそこまで届く。


「同じクラスだったね、よろしく」


と言って側に駆け寄ってきた。


彼女は初めてできた友達である。


「うん、こちらこそよろしく」


並ぶとあまり変わらない身長をできるだけ周囲に気づかれないよう距離を置く。


ローファーのせいだと自分に言い聞かせるが、虚しいだけだった。


「ねぇ、一緒帰らない?」


「もちろんいいよ」


そう言って一緒に帰宅することになった。


太陽はまだまだ元気だし、遮る障害物が無いおかげで休むことなく光を放射している。しかし、そこまで熱くはない。


校門を通ろうとした時、亜子は今まで閉じていた口を開き、家での愚痴を言い始める。


「最近ね親がね、『高校生になったらもっと気を引き締めてよ!』っていっつも、いっつも言ってさ、もう、うるさいんだよね」


お互いに気を許した合った唯一の存在であることを共に知っている。だから、落ち込んでいる時は気持ちを洗いざらい吐いて、気持ちを落ち着かせるのだ。


まぁこれは習慣化したことでもあるし、僕も誰にも言えないような愚痴を吐く。


今日も家に帰るまで愚痴の言い合いが続いた。


長いようで短い1日が終わる。そして、等速で回る地球に身を委ね、学校生活を送る。



学校生活に慣れる頃には夏になっていた。


相変わらず友達を作ろうとせず、移動教室の時などは基本単独行動。たまに練二とすれ違い、話すくらいであった。


休み時間になり、そこそこ居心地の良い教室でいつものように読書を始める。


特に気にしているわけではなかった。意識的に見たわけでもない。ただ、ただなんとなく目線をやるとそこに映る1人の少女の笑顔に見惚れてしまう。


彼女の名前は久美(くみ)といい、いつも着けている赤のカチューシャが特徴的な子である。


一目惚れなんてしないと思っていた。話たことも無ければ、性格も知らない未知の相手を好きになってしまったのだ。それは、とても愚かだと自分でも思うが、この気持ちを変えることは出来ない。


徐々に彼女の従順な崇拝者に染まっていき、たとえ、悪事を働いても何か理由があるのだと思って彼女のことを正当化してしまうだろう。


完全に毒された僕は歯がゆい気持ちに揺られて頭がどうにかなりそうになりながら2週間後の今日を迎えた。


「......た? おい、啓太、聞いてるのか?」


背中をポンと叩かれ、自分の世界から連れ戻される。


「ん? どうした?」


「『ん? どうした?』じゃねーよ、それはこっちのセリフだよ。最近どうした? やけにボーッとしてるけど」


「うん」


無気力な返事と共に一方的に伸びる恋の赤い糸を目線で辿り、ため息を吐く。


隣に練二がいることを気にすることもなくその行為は行われた。


「久美か、まぁ確かに可愛いけど友達が友達だしなぁ」


僕が恋しているのを察した彼はにやけることなく、真面目な話をする。


「久美は知らないけど、その周りの友達は性悪だから気をつけた方がいいよ」


「そのくらい知ってるよ。でも、うーん......」


もどかしい気持ちをどこへぶつけていいのかわからずにまた苛立って、頭を掻き毟る。


「ま、そんなに好きなら話かけてみるのもいいんじゃない?」


練二はちょっとしたアドバイスを残して去っていった。多分僕に用があったはずなのに精神面を考慮して本題を出すのを避けたのだろう。また借りを作ってしまった。


確かに話かけるというのはいいかもしれないが僕も自分がブサイクなのは自覚している。キモがられるのではないか?と心配である。それに、どんな風に話せばいいかもわからない。


結局どうしようもなく頭を抱えながら家へ帰った。その帰り道の途中、と言っても学校から数メートルの地点に偶然にも久美が道の中央に立っている。


体重に任せて怠そうに坂を下っていたのだが、彼女の存在に気づいて体が硬くなってしまった。


できるだけ彼女を見ないように横を通り過ぎようとした瞬間


「啓太くん」


「えっ」


どうして呼び止められたのか理解できないまま反応を示し、彼女を見た。


暑いせいなのか恥ずかしさのせいなのかわからないが彼女の頰は真っ赤に染まっており、それを見てるとこちらまで赤くなるのがわかる。


「ど、どうしました?」


震える声は用件を伺い、揺れる視線は左下を見つめ、立つのがやっとの足は今にも崩れそうだ。


「じ、実は」


どもりながら閉じた瞼は力がこもっているのが一目瞭然で、こちらまで緊張が伝わってくる。


「わ、私......啓太くんのことが......」


「は、はい」


ここまで来たら次に出てくる言葉を予想できた。......そう、僕と彼女は両思いなのだと。


そして、心にできたほんの僅かな期待と余裕は僕に幸福を与えた。


時間が経つ度に心の中で彼女の美点を見つけては称賛するのを繰り返し、僕は彼女の一切を褒め終えた。


わずかに開けた口から言葉が放たれる。


「啓太くんのことが好きです」


「僕も好きです」


舞い上がる。舞い上がって、舞い上がって、舞い上がることほんの数秒後のことだ。僕が返事をすると、久美の後ろから3人の女子生徒がぞろぞろ出てきた。


「久美、大丈夫?」


出てきたのは金髪パーマの女子。彼女は久美を抱き寄せて、自分の子供を宥めるかのように頭を撫でた。


いつの間にか頰が濡れていた久美を呆然と眺め、思考回路の復旧に急ぐ。


「あんた空気読みなさいよー」


鋭い目つきで睨まれる。重たい威圧と冷たい瞳に言葉が詰まる。


どういう状況なのかすら訊かせないつもりのようで、周りにいる女子はこちらを見ることは一切なかった。


とにかく辛いこの空気を変えるために


「あの......今どういう状況......?」


と声を出してみた。すると


「あんたほんとにバカね」


「そうね、罰ゲームで告白したのに気づかないのはゴミ」


呆れた顔を2方向から向けられて、気力がどんどん無くなっていき、坂を転がっていくビジョンが見える。


「ごめん......」


今にも消えそうな声で呟く。


「はいはい、わかったんならさっさと帰ってね」


「家でまぁまにでも慰めてもらうのが妥当」


「バイバイ、さっさと失せなー」


否、彼女達にとっては消えそうな声どころか蝉の鳴き声と同等の雑音なのだろう。


視界に入れることすら拒み、害虫のように追い払う。一生かかっても分かり合えないと思っていたゴキブリの気持ちがなんとなくわかった気がした。


どうしてこんなにも悲しく、虚しく、切なく、不幸せで、儚い僕の真上で神は最高の笑みを浮かべることができるのだろう。


きっと僕の哀れさを嘲笑っているに違いない、それ以外あり得ない。


「うるせー!」


坂が終わった辺りで鬱陶しい蝉時雨に向かって叫んでみる。しかし、蝉は鳴くのを止めることはなかった。


正気を少しでも保つためにイヤホンをつけて世界との境界線を引く。


淡い期待をしていた自分が間抜けだった、浅はかな考えをしていた自分が愚かだった、都合の良い未来を想像していた自分が馬鹿だった。


後悔で打ちひしがれた心のダメージ総量は測り知れない。だから、傷が治るのかすら微妙、自然治癒では絶対に無理なレベルだ。


上下、左右、天地、色の全てが反対に見える。立っているのかすらわからない状態に陥っている。ただ、ここが混沌の世界であるということだけは理解できた。


やっとの思いで坂を下りきって、駅に着いた。長い長い帰宅に終止符が打たれるという安堵感に包まれる。それでも怒りと苛立ちが消滅することはなかった。


「啓太くん」


駅に入る手前でさっきと同じ声に呼び止められる。イヤホンをしていてもしっかり聞こえるほどの大きな声だ。


周囲の目線を気に留めない様子で耳に入ってきた声の持ち主は知っている。久美だ。


哀れな俺に謝罪を述べに来たのか、はたまたからかいに来たのか、それとも......。


イヤホンを外し立ち止まる。背後にいる久美がどんな表情をしているか想像したくない。


「啓太くん、さっきはごめん......」


「いや、もういいんだ」


今にも泣きそうな声で謝るから卑怯だ。怒りの行き場がなくなってしまった。


「その......私、本当に啓太くんのこと、好きです」


「えっ......」


嬉しさにじわじわと侵食されていく心と身体は気づかないうちに振り返って彼女を受け入れる態勢になっていた。


高鳴る胸の鼓動は賑やかな駅前でひときわ大きく響いた。


数人の野次馬がこの様子を観察しているが、今の僕には関係無い。


「本当......に?」


さっき流していた涙は好きな人を傷つけてしまった罪悪感から出てきた物、そう解釈ようとした瞬間


「あなた本当にサイテー」


「所詮愚物は愚物」


「空気読めないとかガイジね」


おかしな方向に飛んでくる罵声を冗談と捉えるには棒読み感が絶望的に足りていなかった。


「そ、そうだよね」


本日2度目の罰ゲーム。誰が罰を受けているのかわからないそのゲームはさっきと同様の人物達によって中断される。


動揺と苦笑いを置き去りにして駅の中へ逃げた。


心のどこかではわかっているつもりだったのに、それになのに期待してしまった、希望を持ってしまった。そして、絶望という名の底なし沼へと堕ちていく......。


もう何も考えたくない、何もしたくない、家に帰ったらベットの中に潜っていたい......永遠に。


電車を待っていると『3度目の正直』という単語が脳内を駆け回るが、取り押さえることができないまま、時が過ぎるのを待つ。


時計をぼんやり見つめて感傷に浸ること以外やる気が起きない。いつもならスマホゲームか読書をしているが今日はそれすらも気が進まない。


長針と短針が重なったと思ったらそれはほんの一瞬のことで、すぐに遠ざかっていく。また重なるだろうけど、それと同時にまた引き離される。


それの繰り返しで僕は進むことができているのなら持っている物を全て捨ててでも現状維持を望む。


しかし、いくら望んでも、足掻いても、止まることのない時間の冷刻さに改めて恐怖する。


家では眠れない夜が待っていた。食欲も出ず、テレビも見たくない。とりあえず布団の中に入るが、眠ってもいないのに悪夢を見てしまう。


地獄は朝まで続いた。結局30分前後の睡眠時間で学校へ向かう。


朝食も抜いて、異常なほど早い登校だ。家に居ても意味が無い、少しでも誰かに慰めて......いや、期待しては駄目だ。


自分の中で葛藤が始まるがすぐにネガティブ思考が勝利する。そして、目の前に続く忌々しい坂にため息をついた。


「はぁ、はぁ、なんでこんなにはぁ、疲れるんだ?」


異常なほど体力が無くなっていることに不信感を覚えるが、考えても仕方ないことに気がついて思考を停止させる。


「ん?」


いきなり肩を叩かれて振り返ろうとすると、指に阻まれた。


頬に窪みができながらも横目で誰なのか探る。


「こんなに早く学校来るって珍しいね」


「まぁお前には関係ないだろ」


そこにいたのは練二であった。


爽やかな顔は僕を気にかけている様子だが、なぜかイラつく。


昨日の出来事なんて知らないはず。それなのに昨日の自分を馬鹿にされているような気がしてならない。


勢いよく突き放す僕の目は一層冷たくなり、早歩きモードへ切り替える。


「え、待って何があった?」


いつもと正反対の行動に驚き、肩を掴んできた。


仕方なく足を止めて怠そうにため息をつく。


「もしかして......」


「あぁ、そうだ。俺はお前みたいにイケメンじゃないからな」


「そ、そうか......悪かった。でも! 顔なんて関係な......」


「お前に何がわかる! もう終わったんだ」


肩に乗っている手を払い学校へ向かう。


死んだ目を見え隠れさせながら、落下してくるカビに似た匂いに反応して空を見上げた。


黒く濁った空から徐々に漏れ出す雨。地面に落ちては弾けてシミとなっていく。


周りの会話が僕への軽蔑の声に聞こえ、目を伏せながら廊下を歩く。


学校に着き、教室に続く階段を上っていると女子の声が聞こえてくる。


内容はすぐにわかった。昨日の事だ。


学校にいるのが苦痛すぎて平常心を保ってられない。


ズタボロになった精神は行き場を失い、危うげな歩き方で自宅に向かおうとした時だった。


「啓太、一緒に帰らない?」


救いの手が差し出された。しかし、


「今そんな気分じゃない。また今度な」


初めて亜子の誘いを断った。『希望なんて持つんじゃない!』という言葉が脳裏をよぎったからだ。


幸福感で満たされた自分など、どこにもいるはずがなかった。だから......だからせめて悲劇の主人公になって周りから慈悲をもらって生きていきたい。


『まぁ、あいつは才能ないから仕方ないな』



『しょーがないから私がやってあげる』


なんて言葉で自分を差別してほしい。そうして、自分の怠惰であるところを隠したい。


死にたい。そう思っていたら誰か......誰かが助けてくれると、救ってくれると、反論してくれると、そう願っている。


未来に希望などない。それをよく知っているのは自分だ。なのに


『お前ならできる』


とか


『努力しればいい」』


と希望があるかのように励ます言葉が存在する。そして、その言葉をなんの事情も知らずに平気で飛ばしてくる。


それはきっと本当の絶望を味わったことがないから容易く吐ける言葉なのだ。


まぁ、他人のことを気にかけれるほど余裕があるやつには到底理解できないであろう。


「待って。啓太、今日どうしたの? なんか変だよ」


少女は教室から出て、帰ろうとした僕を不安そうな目で見つめる。


「なんでもねーよ」


そう吐き捨てて行こうとすると制服を力強く掴まれた。


その手は制服を通じて震えているのがわかる。


「何かあったなら、私に話してよ......落ち込んでる啓太なんて見たくない」


「見たくないなら見なければいいじゃねーか! どうせ普段から見てられない顔だとか思ってたんだろ!」


「ち、違う! そんなこと思ってない! 私はただ......」


負の感情を思いきり投げつけられ、泣きそうになりながらも必死に何かを伝えようとする少女。


制服から手を離され、揺らぐ木の囁きを体で感じた。


「啓太のことが好きだから」


「えっ」


昨日のトラウマが蘇ってくる。


どうしていいのかわからない。ただ、恐怖だけが心身を占領しする。


雲行きが怪しくなり、部活生の心配する声が教室から聞こえてきた。


水道から水が滴り落ちる音が等間隔で鼓膜を刺激する。


「助けてもらった時から」


「やめろよ......」


「ずっと好きなの、だから......」


「やめろよ!」


いきなり怒声をあげてしまい、亜子が息を呑む。


外から雨の降る音が勢いを増しながら、どこからともなく廊下に入ってくる。


「そうやってからかうのも大概にしろよ!」


嬉しさを握り潰し、放課後の廊下を怒鳴り声で埋め尽くす。


無理解の地に立たされた亜子に追い打ちをかける。


「おまえに興味ねーんだよ」


そう言い捨て、早歩きで逃げ去る。


知ってしまい、見失う。わかってる、理解できてる、予想できる。なのにどうしても信じられない。


いつか自分が壊れそうで怖い、そんな自分を見たくない、もっと幸せでいてほしい。だから......なんて言い訳して彼女の涙を見て見ぬふりした。


早歩きで校門をくぐり、自宅へ。


最終的には自分が1番可愛いのだ。好きすぎて、愛おしすぎてたまらない。周囲に良い自分を見て欲しい、自意識過剰な自分を好きになってほしいと思う。


でもそれは、無知すぎる子供の考えだ。今は周りなんてどうでもいい、自分さえ良ければそれでいい。


どうせ、人は生きているだけで誰かを傷つける。その『誰か』から自分を除外しただけ。


己を肯定することにより、存在しているという実感があるかのように錯覚させる。


家に着くと、すぐに布団の上に転がり、何かが引っかかる心を掻き毟る。


険しい顔で必死にもがこうとするが、夏の暑さには勝つことはできない。それと空腹も。


昨日の夜から何も食べていないせいで、腹が赤ちゃんのように騒ぐ。


「はぁ」


ため息と共に起き上がり、冷蔵庫を開けてみる。しかし、冷蔵庫も腹を空かしていた。


仕方なく近くのコンビニへ行くことにする。運の良いことにさっきまでの雨は止んでいた。


ある程度の飲食物を買い、自動ドアの前に立つと暑さが壮大なお出迎え。冷房から名残惜しい足取りで出た。


その帰り道、疲れのせいか視界が揺れ、体もふらつき、呼吸の間隔も短くなる。


徐々に怠くなっていく指を無理矢理曲げ、荷物を持ち上げ直した。


思考さえも奪われ、どうしてこのような症状になったのか理解に苦しむ。その間もどんどん体の機能は仕事を放棄していく。


どんどん意識が遠のいていく......。そして、地面に顔から突っ込んだ。


痛いという感情も無いまま蝉の声だけが全てを支配し、記憶が途切れる。



目覚めると白い天井がうっすら見え、その視界は徐々に明確になっていく。


周りを見渡すとここが病院であることがわかる。そして、なぜ病院にいるのか記憶を辿っていき、倒れた時のことを思い出した。


隣にある窓から入ってくる光は真っ白な部屋を赤く染める。


「起きたのね」


その声の方を見ると看護師さんがこちらへ向かって歩いていた。


「あ、はい。その......僕が倒れた原因って熱中症ですか?」


「はい。そのようでした」


予想通りの返答に「あはは......」と苦笑いするしかなかった。


看護師さんの顔は少し硬く、何か隠しているような表情をしており、何か嫌な予感がする。


「ですが、ちょっと引っかかる部分があって、少しの間通院してほしいです」


「わかりました」


この後、ちゃんと熱中症対策するように注意された。



やはり学校は辛い。できるなら休みたいが、勉強をしなければまともな仕事に就職できない。そう言い聞かせて授業を受けに進む。


「なぁ、啓太、ほんとにどうしたんだ?」


またしても後ろからの不意打ちを食らった。


「どうもしてない、大丈夫だから1人にさせてくれよ」


これ以降練二とは目も合わせていない。亜子ともだ。


誰とも関わらずに過ごす学校生活を続け、とうとう夏休み前、最後の学校の終わりを知らせる鐘が鳴った。


もう夏休みというのに天気はご機嫌斜めらしい。


そこまで重くない宿題を鞄に入れ終えると後ろから自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。


「なんだよ」


と振り返ると亜子が重そうな鞄を担ぎ、もどかしそうな目を向けている。


「あの、辛いなら私を頼ってよ......」


教室を出ていく人達をある程度見送ると、長い沈黙を破り、つぶらな瞳で語りかける。


「......何が言いたいの?」


「嘘の告白されたこと知ってるよ。なんで言ってくれなかったの?」


何もできないことをいいことに説教する彼女の頰が光った。


雲が割れ、陽光が教室へ差し込む。


説教は気が遠くなるほど続き、亜子の足元には水たまりができていた。


「私が啓太のこと好きなのは本当。嘘なんかじゃない。だから......私と付き合ってくれませんか?」


2人きりの部屋を駆け巡るか細い声を引き金に過去のことを思い出す。


初めて亜子を見、イジメられている彼女を助けたあの日。あの時の衰弱しながらも希望に縋り付く声は忘れるはずがない。


気づけば頰に一筋の涙が流れていた。救われたような気がする。いや、気がするのではなく、救われたのだ。


どうしてもっと早くに気づけなかったのだろうと、悔やむ。身近に信頼し合える素晴らしい人がいたのにも関わらず、外見だけで人を好きになった自分が恥ずかしい。


「ありがとう、ありがとう」


くぐもった声で繰り返し感謝の言葉を述べる。


「一度強引に突き放した。それなのにどうして......」


「啓太の様子がおかしいことくらいすぐにわかったよ。だって、好きな人なんだもん」


潮見坂がオレンジ色に染まり、夜が訪れようとしていた。



僕と亜子が付き合って2週間ほど経ち、せっかくの夏休みだから出かけることにした。


どこへ行くか相談した結果ショッピングモールへ行くことに決め、早速バスに乗る。


到着するとそこは人で賑わっており、店に入ると危うく逸れそうになった。


「手繋がない?」


そう訊くと、亜子は顔を真っ赤にして


「う、うん。もちろん、いいよ」


と頷く。


左手で小さな右手をそっと包み込み、手探りで位置を確定させる。


「じゃあ、行くか」


「う、うん......」


照れて目を合わせてくれない。しかし、その仕草がまた可愛い。


少しリードする感じで彼女を引く。それに一生懸命付いてくる。


ショッピングモールを一周終えて、やる事もやった。


お揃いのストラップを買ってスマホに付けたり、亜子に似合う服を選んであげたり、食事したり、ゲームしたりして楽しかった。


これからも、定期的にデートへ誘ってみようかな、なんて思う。


映画館や遊園地、水族館に動物園。行きたい場所は山ほどある。


今日は時間も夕方になっていたので帰ることにした。


亜子の家を目の前にすると


「今日もありがとうね、本当に楽しかった」


と言われた。


「いやいや、こちらこそありがとう。また明日な」


とてつもない幸福感に浸りながら名残惜しい気持ちを押さえつけ、別れを告げる。


手を振って笑顔を交換した後に向かうのは病院。定期的に来るよう言われて一応毎週通っていて、今日も行く事になっている。


本当は家に帰って余韻に浸りたかったのだが、仕方なく病院へ向かって歩く。


歩き始めて10分くらいで受付まで辿り着いた。そして、名前を呼ばれ、診察室に入ると中で待っていたのは険しい顔をした担当の先生だった。


とりあえず勧められた椅子に座ると、先生は重そうな口を開く。


「とても言い辛いことなんだが......君の寿命はあと1週間も無いだろう」


年期の入った白衣が真実であることを頷いた。言葉に詰まるよりも先に亜子のことが脳裏を過る。


このまま自分が死んでしまえば彼女がどれほど悲しむか検討もつかない。彼女に悲しい思いなんてさせたくない。


「君の体の酸素を取り込む力がだんだん弱まってるんだ......」


「そっか、だから......」


思い当たる節を思い出し、1人納得する。坂を登る時の異様な疲労感の正体はこの症状のせいなのだ。


汗が吹き出し、脈が速くなり、視界が揺らぐ。信じられない。この世界に1人だけ置いてけぼりにされた気分だ。


夢......なのか? なんて思ってみたりもした。しかし、これが夢なら亜子とのデートまで否定してしまう事になる。


そんな事はしたくない。現に楽しかった。あれが夢なはずがない。


頰をつねってみる。痛い。涙が溢れるほど痛い。


証明が完了すると同時に足以外の部位全ての力が抜けた。


絶望。その一言でこの感情をまとめられるのならどれほど楽だろうか。


きっと、第三者目線であればまとめられるかもしれない。僕も絶望の2文字だけでまとめるだろう。でも、いざこの状況に立たされたら分かるだろう。この2文字じゃ足りない事を。


「あと、明日からは入院しないと、なんせ体の調子が悪くなってくはずだからね」


「あ、明日から......」


どうすればいいのか考えれば考えるほど辛く、悲しく、虚しくも感じる。


現実から目を逸らしている余裕なんてないし、やりたい事をやっている時間も無い。


最後に自分が出来る事なんて亜子の幸せを願うだけである。


家に着くとベッドに転がり、亜子へと電話をかける。


『もしもし、どうした?』


「その、実はな......」


本当は別れを告げるなんて嫌だ。でも、亜子が悲しむ姿など想像もしたくない。


『どうしたの?もしかして構って欲しいだけとか?』


間を空けすぎたせいでからかわれる始末。彼女の笑い声を聞くと余計に言葉が薄れていく。しかし、もたもたしている時間は無い。


唇を噛み締め、自分を悔やみながら嘘を吐き始める。


「俺、亜子のことそこまで好きじゃないんだよ。だから別れよう」


『え、な、何の冗談?』


険しくなる表情が伺える。


「冗談なんかじゃない。正直言うとおまえ、ブスじゃん」


『え、え、え......』


震え、鼻をすする音が胸の辺りをかき混ぜ始めた。


あまりにも辛辣な言葉であることは十分理解している。しかし、このくらい突き放さなければ別れる意味が無い。だから......


「だからさ、別れよう」


『そ、そんな......』


「......じゃあな」


そう言い残して電話を切った。泣いている亜子の声など聞きたくなかった。


一緒に買った熊のストラップを眺めながら暗い部屋の中、恨みと後悔の込もった嘆き声が響く。月は雲に隠れ、頼れる物など1つも無かった。



病院の中での生活が始まる。


初日、症状に関しては特に異常は無かったが、亜子の事が気になって仕方がなかった。


今後、亜子の心の支えはどうなるのか。彼女は誰と結婚するのか。そして、どんな生活を送るだろうか。色々な疑問が飛び交う。


亜子が他の男性と結ばれている未来を想像しただけで、むしゃくしゃする。だけど、彼女が幸せならいいじゃないか、と言い聞かせた。


2日目になると、もう耐えきれなくなり、何度電話しようとしたことか。ストレスだけで死にそうなくらい辛かった。


3日目になると、階段の上り下りだけで息切れするようになった。亜子の事もあり、食事も喉を通らない状態。


4日目はベッドでずっと横になっていた。熊のストラップを通して過去の輝かしい思い出を見て、感傷に浸っていた。そして、もうあの時のような笑顔を見る事も出来ないのだろう、と後悔で埋め尽くされる。


5日目になると、自殺願望が芽生え始めた。亜子の事もどうでもよくなり、とにかく楽になりたくて仕方が無い。しかし、自殺する勇気は出なかった。


そして、今日は6日目。朝、先生から今日か明日では完全に動けなくなると言われた。


そして、それが死を意味することも知っている。だから、手すりに助けをもらいながら階段を上った。


すっかり青ざめてしまった顔に以前の啓太の面影は無い。


死がすぐそこにあるにも関わらず、一切恐怖を感じない。生きる意味を捨てたからだろうか。


本当は寂しい、だけど、入院のことは誰にも言っていない。だから何の期待を持つことも無いのだ。


このまま静かに死を受け入れ、何も無かったかのように明日が訪れ、世界は動き、地球は回る。


それでいいのだ。どうせ自分が生きていたところで、変わることは何も無く、亜子だって僕より魅力的な男性と結ばれるだろう。そして、幸せになってくれれば......。


外に出ると夕日が憐れむようにこちらを見下ろす。


空になって腐っていく心が悲鳴をあげていくのも気付かずに目を閉じる。


闇の底へ落ちる覚悟は出来た。


風が強く吹き付け、不思議な匂いがするが、それが何なのか気にも留めずに前方へ体重を移動させていく。


「待て!」


怒りで満ち溢れた声が病院の屋上を凍りつける。


声の主がわかった瞬間思わず振り返った。そこにはいるはずが無い練二が息を切らして立っているのだ。


「おい、何してんだよ」


「なんで、ここに?」


「そんな事はどうでもいい、早く戻って来い!」


言われるがまま柵を飛び越え、練二の元へ歩み寄る。彼は歯をくいしばって拳を強く握っていた。


「事情は全部聞いた。けどな!」


皮膚同士がぶつかり合い、お互いに痛みを感じる。啓太は頬、練二は手のひら。


「そんな簡単に命を捨てていいと思ってるのか? それとも、単純に生きるのが嫌になったのか?」


我を忘れて、反論を受け付けようとしなかった。


「亜子まであんな傷つけて......。おまえがやろうとした事は逆効果なんだよ、もっと周りを頼ったっていいじゃないか!」


本当は殴りたかったのだろう。しかし、優しさがビンタに抑えてくれた。


「亜子......」


捨てたはずの記憶が蘇る。気がつけば涙が流れていた。


あの笑顔をもう一度見たい、最後に2人で夜空を見上げたいなんて思ってしまう。もう戻れないと分かっているにも関わらずだ。


「おまえの様子がおかしいって言ってきたのは亜子だし、今ここに向かってるはずだ」


「え、本当に?」


「あぁ、本当だ」


もしかしたら今日死ぬかもしれないと言われている。最後に、本当に最後でいいからもう一度......。


とりあえず自室に戻ろうと練二の隣を通ると


「おまえ、次俺の好きな人を傷つけたらただで済むと思うなよ」


と耳に呟いて笑った。


その言葉は僕が持つには重すぎかもしれない。しかし、せめてもの恩返しをするため、無理させてもらいます。と心の中で呟き


「わかった、任せておけ」


どこか頼りない返事と手で作ったいいねマークを送る。


「本当にありがとう」


そう言い残し、階段を駆け下りる。


練二にはたくさん助けられた。なのに、もう恩を返す事が出来なくなってしまう。その悔しさで涙が止まらない。


ごめんよ、ごめん。本当にすまない。届きもしない謝罪の言葉は口から出ることは無かった。


自室に戻る頃には息をするのがやっとであった。ベッドに座ると同時に勢いよく部屋のドアが開く。


そこには自分と同様、息が荒くなった少女がいる。そして、彼女はこちらを見るなり叫ぶ。


「何で!」


それから、我慢していた涙が溢れながらもこちらへ近づく。


「やっぱり、何で......。こんな、顔色も悪くなって......」


「ごめんな。亜子を傷つけたくなかったんだ。だから、だから......」


顔がくしゃくしゃになった彼女を抱き寄せ、頭を撫でる。


さっき拭き取ったばかりの涙がまた、道を作り始める。


「ごめん、俺、今日死ぬかもしれないんだ」


「えっ」


抱き返されている力が緩んだと思ったらすぐに強くなった。


このまま突き放せば悲しい思いをさせることなど無かっただろう。少しでも一緒に居たいという欲望にあっけなく負けてしまったのだ。


というよりも、自分が亜子の悲しむ顔が見たく無かったから突き放した。つまり、亜子の事よりも自分の事を優先させてしまったのだ。


自分の自己中さを身をもって知った。


「な、なぁ。今からデートしに行かないか?」


「その前に言うことあるんじゃないの?」


腕を解く事無く問う。


「え? ご、ごめん?」


「違う」


少し怒り気味のようで声が荒っぽく、頰を膨らましているようだ。


ここまでして言って欲しい言葉なんて「あれ」に決まっている。彼女の思っているのが透かしたように分かるのは付き合いの長さと相性の良さのおかげだろう。


深呼吸して緊張感を吹っ飛ばし、放つ。


「好きだよ、それから......ありがとう」


「やっぱり、言ってくれると信じてた。こちらこそありがとう。私も好きだよ」


ハグの時間は一旦終わらして、病院を後にする。



隣に居てくれているだけで嬉しくて蒸発しそうだ。症状のせいで歩きながら会話するのが辛い。だから、何も話さないが、向かおうとしている場所が一致しているのは確かだろう。


潮見坂を登り、星樹高校の前を通り過ぎて頂上へ向かう。


入学式に増して、症状が悪化しているのが怖いほど分かる。それから、死ぬ恐怖も直々に植え付けられる。でも、心なしか亜子といると笑顔になれた。それはきっと、「なれた」では無く、「させられた」なのかもしれない。


高台に着く頃には陽も沈みきって辺りは月と街灯の光に包まれていた。


疲れた体をベンチに預け、夜空を見上げる。視界を遮る物は何一つ無く、星が一所懸命に光を放つ。


今、流れ星を見つけられたなら何を祈るのだろう。


「ねぇ、あれ、夏の大三角じゃない?」


亜子が指差す先には確かに、他よりも目立つ3つの星が三角形を形作っている。


「ほんとだ、こんな綺麗に見える物なんだね」


冷たい風が2人を吹き付けた。


恐怖心を和らげるために、膝に置いていた手を優しく握る。彼女の手は平常心を保つことが出来ていないようだった。


星を眺める亜子を隣から盗み見る。その横顔はとても美しく、瞳は月のように光を反射させていた。


じっと見つめている事に気がつき、こちらを向いた亜子と視線が合う。すると、彼女はゆっくり目を閉じた。


紅く綺麗な唇を奪い、その後、無残にも意識が途切れる。



痛みと苦しさに起こされ、瞼を開くと、病院にいることがわかった。


隣には担当の先生と亜子が座っており、意識が朦朧とする僕を静かに見守っている。


「先生、先ほど、は......ありがとう、ございます」


とお礼の言葉を述べた。さっき、病人なのに外出の許可を出してくれたのだ。


「無理に喋ったり、動いたりしない方がいい」


痛みが消えてきた頃には命の灯火の大きさを知る。


隣に座る亜子に顔を向けると空っぽの体からいろいろな物が溢れ出た。


「亜子、ごめんな」


掠れて今にも消えそうな声はしっかりと彼女の耳に届いた。


「ううん。謝る必要なんて無いよ。それに、きっと奇跡、起きるから......」


涙をこらえる彼女を見て自分の犯した罪の大きさを改めて思い知る。


死ぬのは怖いが、彼女が隣で手を握ってくれていてどこか心強い。


意識が薄れ、頭の中にある物が1つずつ消えていく。一所懸命笑っている亜子がいる。


さっきまでの痛みが復活し、死んだ息が溢れた。



それからどれほどの時間が流れたかは覚えてない。もしかしたら忘れるほど幸せだったのかもしれない。


その長いようで短い時間を使い、じわじわと寿命を食い散らかし、ここまで来た。もう振り返る記憶なんて残っていない。


人生最後に見る君は見慣れていた顔と変わっていた。

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