頑張ったんだよ!?

紀之介

かなり怒っている

 いつもの公園のいつもの時計塔の横。


 待ち合わせ相手は、当然の様にそこに立っていました。


 スマホの電源を入れ忘れ、1時間以上遅刻。


 後ろめたい私は、後ろから回り込みます。


「お、お待たせぇ…」


 覚悟を決めた一言に、宏和は反応しました。


「岡田琴音さん」


 フルネームで呼ばれ、私の頭に中で アラームが鳴り響きます。


 宏和は かなり怒っている様です。


 何とか誤魔化せないかと、私は茶化します。


「ヒ、ヒロの怒った顔が見たかったから、遅れて来ちゃった♡」


「…満足した?」


 笑ってない目で、口を緩める宏和。


 茶化せないと悟った私は、本当の理由を白状します。


「ふ、服に悩んでたら…家を出るのが遅れちゃってぇ」


「…何で、前の日に準備しておかないの?」


「昨日の夜に、き、決めてはいたんだよ。」


 私に突然、スイッチが入りました。


「でも、実際に着て、鏡で確認したら…何か違って!」


 状況も忘れて、何故か始める自己主張。


「デートで、ヒロに可愛い私を見てもらおうと、頑張ったんだよ!?」


 熱くなった私の目を、宏和が覗き込みます。


「琴ちゃん…」


「何!?」


「真っ先に…僕に言わないといけない事が、あると思うんだけど」


 一気にクールダウンする私。


 唇を噛み締めながら、声を絞り出します。


「─ ち、遅刻して…ごめんなさい」


「はい、良く言えました。」


----------


「ほ・め・て!」


 ほとぼりが冷めたと判断した私は、頑張ったコーデを見せびらかしました。


 ボソッと、宏和が呟きます。


「…烏、みたい」


「え、ゴスロリの何処が?!」


「色が濡羽色?」


「それって…髪の毛を褒める時に使うんじゃないの!?」


 食って掛かろうとして、私は動作を止めました。


「しきりに頬を掻いているって事は…何か気になる事があるんだよね?」


 指摘されて初めて、宏和は自分の癖の発動に気が付いた様です。


「ヒロ?」


「スカート…」


「え?」


「─ ちょっと短すぎないかな」


 殊更 不機嫌そうに呟いた宏和に、私は余裕の笑みを返します。


「これは…ヒロと一緒の時しか着ないから、安心して♡」


----------


「そろそろ、公園を出ようか」


 ベンチから腰を上げた宏和に、隣に座っていた私は、腕を伸ばしました。


 宏和が、笑いを噛み殺します。


「繋ぐ?」


 唇を尖らせた私の手を、宏和はしっかりと握ってくれました。


 私は満足して、ベンチから立ち上がります。


「手を繋がないデートなんか、ありえないんだからね♡」

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頑張ったんだよ!? 紀之介 @otnknsk

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