Fateful Gazer

めそ

プロローグ 幕開け

『この地球には存在していて良いものと悪いものとがある』


 人類が宇宙に進出し、地球を中心とした生活を終えて二世紀が経過した頃。


『私達人間は論ずるまでもなく後者である』


 その言葉は地球、宇宙問わず誰の耳にも、誰の目にも届けられた。


『さあ、新たな時代の糧となろう』


 大量の殺戮兵器と共に。


 ※


 二世紀と少し前、人類は様々な困難を乗り越え宇宙での生活を実現した。

 その過程で新しいエネルギー源として〈暗黒炉〉を開発したのが一番の功績と言えるだろう。


 〈暗黒炉〉とは内部でブラックホールを生成する装置のことを言い、そのブラックホールが生み出すエネルギーを化学エネルギーに変換する〈黒洞機関〉の最も重要な部分である。

 枯渇し始めていた生活エネルギーは全て〈黒洞機関〉が生み出すエネルギーで補うことが出来たため、一〇億まで減っていた人類はその後一〇〇余年で一〇〇億を超えた。

 そして〈暗黒炉〉の開発に続くように技術の進歩は急速に進歩し、人類に宇宙での生活を可能にさせた。


 宇宙で人類が住むために造られた宇宙ステーションは一〇基の〈暗黒炉〉から生み出されるエネルギーをそのまま動力源とし、高度に発達したバイオ技術は日々の食糧の豊かさを保った。


 宇宙で住むことが可能になったが、しかし長い間重力下で生活していた人類の中には地球以外で住むことは出来ないと考える者も少なくなかった。

 宇宙で住む人類と地球に残った人類の違いは住む場所の違いしかないのだが、宇宙に住む人類は地球に残った人類を嘲笑する風潮が強くあった。


 それが原因となったのだろうか。


 いつしか『地球教』という宗教が地球に残った人類を支配していた。

『地球教』に聖書や聖典は存在せず、代わりに「地球を愛しなさい」という言葉のみが存在した。



 挨拶は「地球を愛しなさい」

 食事の前には「地球を愛しなさい」

 食事の後にも「地球を愛しなさい」

 怪我をしたら「地球を愛しなさい」

 宇宙に住みたいのならば「地球を愛しなさい」

 人を殺してしまったから「地球を愛しなさい」

 神は存在しないので「地球を愛しなさい」

 生まれて最初に言った言葉は「地球を愛しなさい」

 死ぬ前に言うべき言葉は「地球を愛しなさい」

 困った時は「地球を愛しなさい」



 宇宙に住み、地球に戻ってくることのない人類は『地球教』の存在など露ほども知らず、ただ未開の星を探して技術の発展に努めていた。


 人類が宇宙と地球に別れて一世紀が経った頃、〈黒洞機関〉を動力源に用いたGPSジャイアント・パワードスーツと呼ばれる工業用ロボットが宇宙で開発された。宇宙と地球に別れてもお互いの関係を保っていた人類は当たり前のようにこの技術を共有した。


 これは宇宙で新たに発見された事象や開発された技術などを全て無償で地球の人類に提供することで、宇宙と地球の格差をなくし地球差別をなくそうとする宇宙政府の考えに基づく行いだった。


 これが悲劇の引き金となろうとは、当時は誰にも予測することが出来なかった。

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