オムニバス・ショートショート
リュウ
第1話 ある休日
ある休日。
僕のデスクトップの画像が、変っていた。
「ん?」
南の島の画像。
海。多分、海だ。
優しい光が周囲を照らしていた。
朝方か、夕暮れかは、わからない。
右側から、ヤシの木が大きく曲がって生えている。
ゆらゆらと光が波に反射している。
海の上には、何隻かの小型の船。
円錐の帽子をかぶった漁師が、中央の船に乗っていて、腰を屈めで何かを取っている。
静かな風景が切り抜かれていた。
「こんな画像はいかがでしょうか?」
メッセージが、表示された。
「いかがでしょうか?」って、
勝手に変更しておいて、どうかしている。
気遣ってくれている?
僕なんかのこと、気にしてくれるのは、ありがたいことだけど。
僕にとっては、そんな画像なんかどうでもいいことなんだ。
ましてや僕には、セールスぽいメッセージなんか、要らない。
それより、僕のお気に入りの画像、何処にやったの?
宇宙船の出窓から見える地球の画像。
頼むから、戻しておいてくれよ。
僕が、変えなくちゃいけないの?
勝手に変えたのに?
僕のライフログを見て、心配してくれたの?
休日に何処へも出かけない僕を気遣ってくれてるの?
「コイツ、何処にも出かけないし、誰にも会わないから、声かけしてやろう」
っていう、ボランティア精神から、画像を変更したの?
それは、余計なお世話なんだよね。
出かけたくないから、出かけないだけで。
会いたいヤツが居ないから、会わないだけ。
だから、構わないで欲しいんだ。
そっとしておいてくれないかな。
誰か、わからないけど、自分勝手すぎない?
勝手に更新するのは。
僕の身にもなってよ。
欲しくないモノや、見たくないモノを画面に張り付けるのは、やめてよ。
見たくないんだから。
不愉快そのものなんだ。
ある種の暴力だと思うよ。
例えば、これ。
画面には、ずーっと昔、ちょっと調べたミシンのコマーシャルが張り付いている。
いつ僕が、「これ、欲しいです」って言ったかな?
なのに、勝手に画面の一部を占拠しているのは、なぜ?
僕の画面なのに、その分だけ僕の情報が削られていることに気付かないの?
そんな、察する心がない人から、モノを買うと思う?
買わないよね。
そこんところ、分かってよ。
僕は、メーラーを開いた。
セールスだらけのメールだ。
ポイント獲得のチャンスだとか、今なら10パーセントオフだとか。
だから、そんなメールは、要らないだよ。
欲しくないし、使わないし、買わないよ。
分かっているんじゃないの?
僕が、そんなもの買う訳ないじゃない。
僕は、ボットなんだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます