あかいみはじけた 26

「ゼロ!まずいよ!」

 気付けば、横断歩道の両側から警官が歩み寄っていた。右に二人、左に二人の計四人。どう考えてもこちらの方が分が悪い。

「君達、夜にこんなところで喧嘩なんてするんじゃない」

「あっ……すいません」

 盗難について何ら関係ない言葉にほっとしたのもつかの間、すぐに警官の表情が訝しげなものに変わる。

「なあ、こいつらさっき通達が来た……?」

 ひそひそと囁かれる声に、嫌な雲行きを感じる。

「……ちょっと君達、来てくれるかな?」

 疑問符が付きながらも拒否を許そうとしない言葉にリウが緊張に表情を固まらせた。その横でゼロが相好を崩して両手を降参するように上げた。

「ああ、ばれちゃった?俺達の事」

 その様子に呆れたように警官の一人が溜息をつく。

「食い逃げなんてして、現場近くをうろうろしているなんて間抜けすぎるぞ」 

 その答えに、リウは目を丸くし、ゼロは目を細めた。

「ほら来い」

 両肩を掴まれ、連行されていくゼロは酷く大人しい。車から身を乗り出すエルザを視線だけで制して、ゼロはパトカーに乗り込んだ。リウは「なんで」とか「どうして」とか騒ぎながら後部座席に押し込まれる。

 赤い回転灯を光らせて、パトカーは静かに走り出した。遠ざかる車体をエルザは心配そうに見つめながら、それでも自分の仕事をこなすため、車に取り付けられた大量の情報端末の起動スイッチを押した。



 遠ざかるパトカーが通り過ぎたのを確認してから、細い路地に停車していた黒いセダンの中で、柳のプランツは無線通信をオンにした。ハンドルを握る右手の袖口には、暗い社内でも僅かな光を反射する金の樹のバッヂが留まっている。

「やられました、ターゲットは二人とも警察に連行されています」

『囲い込もうと通報までしたのはミスだったか……』

 返された声は、ゴーシュの部屋に居た少年のものだった。

『二人のほうは折を見て引き取りに行く。ゴーシュ様は犯人のプランを潰して、あいつ等へユグドラに手を出したことを死ぬほど後悔させたいそうだ。直ぐに回収するのは得策じゃない』

「では、我らは一度戻ります。幸いターゲットの保育対象は捕獲しました」

『それだけでも上々だ。お前らプランツにとってはそれが急所だろう?連れて来たら面白半分に燃やされるだろうな……いや、警察からあいつ等を回収してから目の前で燃やすかな。服を剥いで、花弁をむしり取って、手足を切り落としてキャンプファイアみたいに櫓を組んでから火をつけてもいい。ハハ、鉈なんてこんな高級な場所にはないか――早く、早く連れてこいよ。ゴーシュ様を退屈させるな』

 そういって無線は切られた。むすっとした顔で「クソガキが」と言い捨てると、プランツは黒いセダンを静かに発車させた。その後部座席には、気を失いくたりと倒れるクーの姿があった。

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