第42話 たこ焼きと屋台

 ユウちゃんのクラスを出た俺たちは、次に凛子先輩のクラスがやっている屋台を見に行くことにした。


「えーと、三年C組はたこ焼きらしいよ」


 学祭のパンフレットを開く小鳥遊。


「へえ、たこ焼き焼くのって難しそうだな」


「でも、屋台のたこ焼きって美味しいよね。僕、大好き」


 そんな話をしながら外に出る。


 三年生の屋台は校門のすぐ側で、一番売り上げが期待出来る場所にある。正直、羨ましい。


 まあ、うちのクラスも紫乃先生のおかげで大盛況だったし、売上では負けてないはずだけどな。


「あ、あそこだ」


 人だかりの中にたこ焼き屋の看板を見つけて駆け寄る。


「すみませーん、たこ焼き二つ」


「あいよ、たこ焼き二丁!……って」


 赤いエプロンをつけてねじり鉢巻をした凛子先輩が目を見開く。


「あれ、あんたたち、来てたんだ!」


「ねじり鉢巻似合ってますよ」


「もー!」


 凛子先輩は恥ずかしそうに俺の背中を叩いた。


「待ってて、せっかく来てくれたからサービスするね」


「えっ、こんなにたくさん!?」


 焼きあがったばかりのたこ焼きをポイポイとケースに放り込む凛子先輩。


「クラスのみんなと分けようか」


「そうだね」


 大量のたこ焼きを手にした俺と小鳥遊がそんなことを話していると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「あ、あなたたち……どうしてこんな所にいるんですの!?」


 ヒステリックに叫び散らすのは、タコの着ぐるみに身を包んだ生徒会長だった。


 そっか……生徒会長、凛子先輩と同じクラスだったんだ。それにしても――。


 俺はタコの着ぐるみを着た生徒会長のまぬけな姿にプッと噴き出した。


「ぷぷっ、似合いますよ、生徒会長」


「う、うるさいですわ! 私だって、ジャンケンに負けなければこんな格好――ううううう」


「大丈夫ですよ。可愛いですって」


 小鳥遊が慌ててフォローする。


「ううう――恥ずかしいですわ! 屈辱ですわあ……!」


 顔を覆って恥ずかしがる生徒会長。

 そうかな。今まで見てきた痴態と比べたら、可愛いもんだと思うけど。生徒会長的にはこっちの方が恥ずかしいのだろうか。


「それより生徒会長、例の件は――」


 俺が耳元でささやくと、生徒会長が真剣な顔になる。


「大丈夫ですわ。演劇同好会のステージ発表は、予定通り吹奏楽部の後にねじ込んでおきましたので」


「良かった。ありがとう」


 ここ桃色学園の吹奏楽部は全国大会の常連で、ファンが多いという設定がある。


 そこで演劇同好会を吹奏楽部の発表の直後にすることで、吹奏楽部のファンのお客さんにそのまま演劇同好会の発表を見てもらおうという作戦だ。


 原作では、演劇同好会の観客はガラガラだったけど、せっかくだからたくさんのお客さんに見てほしいしな。


 いやー、持つべきものは、生徒会長の友人だぜ!


 小声でコソコソと話をする俺らを見て小鳥遊が首を傾げる。


「どうしたの、何の話?」


「いや、何でもない。それより教室に戻ろうぜ」


 大量のたこ焼きを手に教室に戻る。


「はー、学祭って楽しいね」


 満面の笑みの小鳥遊。良かった。どうやら文化祭を満喫してくれたようだ。


「僕、ずっと親友と一緒に学祭を回るのが夢だったんだ。本当に、武田くんと親友になれてよかったよ。親友ってやっぱりいいものだね」


 キラキラとした瞳で俺を見上げてくる小鳥遊。


 そういえば、小鳥遊は原作では山田と文化祭を回っていたっけ。


 今回は山田は教室に置いてきたけど、妙なことはしてないだろうな。


 っていうか、あいつ昼休みとか取ってるのかな? 確か山田の本来の出番は午後からだったはず。午前中のうちに色々回っておかなくていいのか? 昼飯とか食ってるのだろうか。


「どうせなら山田も連れてくれば良かったかな」


 俺がポツリと呟くと、小鳥遊の目付きが少し変わった。


「……また山田くん? 武田くんの親友は僕で、今は僕と一緒に文化祭を回ってるんだよね? それを何で他の男の話をするのかな?」


「あ、いや、その――」


 小鳥遊の目の光が消える。


 こ、怖い!


「いや、俺はただ、あいつ学祭を見て回る暇があるのかなって……」


「本当? 本当は僕より山田くんと学祭をまわりたかったんじゃないの?」


 小鳥遊が詰め寄る。


「違う違う! 俺の親友は小鳥遊だけだよ! 信じてくれ!」


 俺は慌てて首を横に振った。


「そう? ならいいけど」


 ケロッと元のイケメンに戻る小鳥遊。


 はー、怖かった。


 ていうか、何で俺が浮気した彼氏みたいになってるんだよ。


 と、ここで俺はとある作戦を思いついた。


 そうだ、この作戦なら、小鳥遊は必ず桃園さんをダンスに誘うはず!


「なあ、小鳥遊。お前、ダンスの相手ってまだ決まってないよな?」


 ドキドキしながら切り出す。


「うん、そうだけど」


「そ、それなら……桃園さんなんかどうかな」


 思い切って提案すると、小鳥遊は少しビックリしたような顔をした。


「桃園さん? でも桃園さんって美人だし、もう相手がいるんじゃないかなぁ」


「いやいや、そんな事ないって。ほら、ユウちゃんと桃園さんは仲良いし、小鳥遊が桃園さんと踊ることにすれば、四人で行動できるじゃん。後夜祭も親友である俺と過ごすことができるぞ!」


 俺は早口でまくし立てた。もうこうなりゃやけだ。


 小鳥遊は少し考え込んだあとでうなずいた。


「そうだね。それはいいアイディアかも。武田くんと後夜祭も一緒に過ごせるなんて素敵だよ。もし相手が居ないようだったら誘ってみるね!」


 よっしゃ!


 俺は心の中でガッツポーズをした。


 これで小鳥遊と桃園さんがダンスを踊れる。


 クックック。


 この文化祭で、小鳥遊と桃園さんの最大のフラグを立ててやるぜ!

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