第65話 内緒の公園デート
映画が終わると、俺たちは近所のラーメン屋さんに入った。
「映画、結構面白かったね」
「彼氏ができたらしたいことリスト」の「映画館でラブラブ」に線を引いて消しながらミカンが言う。
ていうかあれ、したいことリストだったのか。てっきり痴女……いや、何でもない。
「ねえ、武田はこのあと行きたいところとかある? したいこととか」
行きたいところか。山田が居ないところならどこでもいいんだけど。
デートなんてしたことないからデートスポットなんて分からないし。
そうだ。この際、男一人だと入りにくいような場所についてきてもうのもいいかな。
……と、俺の頭にいいアイディアが浮かんだ。
「それじゃあ、ここにいかないか!?」
俺はスマホを開き、オシャレなカフェのホームページを見せた。
可愛い雑貨とか美味しそうなケーキとかがあって気になつていたのだが、男子だけでは入りにくいと思っていたのだ。
「このレモンケーキ、美味しそうじゃないか?」
俺が前のめりになりながらケーキの評判について伝えていると、ミカンがプッと笑った。
「あんたって、恋愛ものとか好きだし、案外乙女チックだよねー」
悪かったな!
サイトによると場所はこの近くらしいので、歩いて向かう
が――。
「閉まってる」
オシャレな外観のカフェには「CLOSED」の看板がかかっていた。
「そんな……」
がっくりと肩を落とす。
「仕方ないわよ、別の店に行きましょ」
ミカンに言われ、俺は渋々歩き出した。
「はーあ、レモンケーキ、食べたかったなあ」
俺が未練たらしくお店のホームページに載っているケーキの写真を見ていると、ミカンがため息をついた。
「そんなにレモンケーキ食べたいなら……うちに来る? 焼いてあげるわよ」
「え?」
ミカンの……家?
「今日、うち親も出かけてて誰もいないし、ちょうどいいわ」
「え……あの、いやいや……」
家に誰も居ないって……そんなハレンチな! ラブコメ的には必ず間違いが起こるアレじゃねーか!
「ね、他に行くとこが無いなら行こうよ」
ミカンがグイッと俺の腕を引っ張る。
いやいや待て待て……それはダメだ!
「――い、行きたい所ならある!」
俺はミカンの手を振りはらい、とっさに近くの公園を指さした。
「あの公園?」
「そ、そう。あの公園」
正直なところ、公園の名前すら知らなかったが、見たところ散歩にちょうど良さそうだし、花壇の花も綺麗で写真映えしそうだ。
「まあ、確かにあの公園はデートスポットだけどさ。あんたって意外とベタな所好きなのね」
「うるさいな」
俺たちは早速、デートスポットとして有名らしいその公園へと向かった。
「げ」
と、公園に一歩足を踏み入れた瞬間、俺は思わず声を上げた。
そこにはキスを交わすカップル、抱き合うカップル、それ以上のことをするカップル――要するにイチャイチャするカップルで溢れかえっていた。
「カ、カップルだらけだね」
「そうね。想像以上だわ」
ミカンが辺りを見回すと、ゴクリと唾を飲みこんだ。
「あ~ん! 野外でするのって気持ちいいですわ♡」
「ふふ、昼間っから公園で露出するのが趣味だなんて、いけない子ね。妹や後輩たちが見たらどう思うかしら」
「いやっ、そんなこと言っちゃいや~ん♡」
緊張しながら公園内を歩いていると、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
げげっ……あれは……。
真昼間から公園でイチャついているのは、元生徒会長と紫乃先生だった。
げっ、なんであの二人、こんな所にいるんだよ! 大学は!?
「武田? どうしたの?」
怪訝そうな顔をするミカン。
「い、いや、何でもない。それよりこっちに行こう。ちょっと足が疲れたからベンチで休みたいし。なっ!」
「え、ちょっと」
俺はミカンの手を握り、生徒会長たちがいる場所と反対方向へと強引に引っ張っていった。
生徒会長だけじゃない。さっきから妙な視線も感じるし、恐らく山田のやつも着いてきてる。
「あのベンチで休もうか」
「う、うん」
二人でベンチに腰掛ける。
ふう。ここで少し次のプランを考えるか。このままだとミカンに家に連れ込まれる。俺のチェリーが危ない。
隣のベンチでは、大学生と思しき男の上に女の子が乗り、イチャイチャしている。うう、落ち着かないなあ。
俺がソワソワしていると、ミカンが身を寄せてきた。
「武田……」
ピッタリと俺の体にくっつくミカン。
「えっ、何?」
俺がびっくりしていると、ミカンがクスリと笑って俺の手の甲をスリスリと撫でてきた。
「こんな所に私を連れてくるなんて、もしかして武田も、ああいうことしたいの?」
「え? ああいうことって――」
「うんうん、そうだよね。武田も健康的な普通の男子高校生だし、私みたいな魅力的な女の子と一緒にいたら、妙な気になっちゃうわよね。気づかなくてごめん」
じっと俺の顔を見つめてくるミカン。潤んだ瞳。少し紅く染った頬。プルプルの唇。
は? は? 一体、どういうこと?
「――仕方ないわね、少しだけよ?」
ミカンが俺の手を取り、柔らかいおっぱいに押し当てた。
ふにっ。
な……ななな!?
何とも言えず柔らかい感触。頭が真っ白になった。
「私、少し考えたんだけど、武田がそこまでしたいっていうんなら……いいよ。武田にはお世話になってるし。キスは好きな人のために取っておきたいからダメだけど、少し体を触るぐらいなら――」
えっ……えええええええ!?
ちょ、ミカン、何言って――。
頭が茹で上がったようになり、混乱していると、後ろの茂みから声が聞こえた。
「だ……ダメですっ!! いくら付き合ってるフリしてるからって、そんなこと……」
「桃園さん、大きい声出すと、武田くんににバレるよ!」
えっ!?
聞き覚えのある声。山田――じゃない!?
振り返ると、ベンチの後ろの茂みの中に隠れていた桃園さんと小鳥遊と目が合った。
ええ!?
「も、桃園さんと小鳥遊!? どうしてここに!?」
とっさにミカンから離れる。
俺が混乱していると、桃園さんは今まで見た事がないくらい顔を真っ赤にして
「いえ……あの……その……これは……ごめんなさいっ!」
ダッとその場から駆け出し、逃げていく桃園さん。
「あ、ええと、僕、桃園さんから相談を受けて……それでたまたま武田くんたちを見つけて……偶然だよ! あくまで、たまたまここに来ただけだから。じゃあね!」
小鳥遊も俺たちに手を振り、桃園さんのあとを追って逃げていく。
「……え、ちょ」
桃園さんと小鳥遊、何でここに!?
っていうか「付き合ってるフリ」って……ユウちゃん、桃園さんに喋ったのか!?
俺がポカーンとしながら二人の後ろ姿を見送っていると、ミカンがぷうっと頬をふくらませた。
「ちょ、ちょっとちょっとぉ! なんで桃園さんといっくんが二人で私たちの跡をつけてるのよ! しかもあんなに仲良さげに!」
「そ、そうだよね。俺もびっくりだよ。相談に乗ってたって言ってたけど……何だろ」
俺は茂みから出てきた二人の姿を思い出した。
桃園さんのあの表情……幻滅されたかな。呆れられたかも。好きでもない女の子と付き合うフリをして、デートして――何やってるんだろ。
それに、小鳥遊と桃園さん、二人で仲良さそうだったな。
休日に二人で会って相談事なんて、かなり二人の間柄が深まってないとできないだろうし、いつのまに?
もしかして、今までも俺が知らないだけでそんな事があったのか?
ドクドクドクドク。
心臓が変な音を立てる。
あれ? 何だこれ。
小鳥遊と桃園さんの仲が急接近して――それは俺が前から望んでたことじゃないか。
望み通りに事が運んでるのに、何でこんなに胸が痛いんだ?
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