16.ホワイトデーは手作りで

第54話 ホワイトデーは手作り菓子を

 月日は過ぎ、いつの間にやらホワイトデー が間近に迫ってきた。


「お返し、どうしようかなあ」


 前の世界にいた時は毎年チョコ0だったので悩んだことなんてなかったけど、義理チョコとはいえ、いざチョコを貰うと何をお返ししていいものやら悩んでしまう。


「なあ、小鳥遊はどうするんだ?」


「僕? 僕は毎年手作りのカップケーキとかマカロンとか焼いて渡してるよ」


 しれっとした顔で言う小鳥遊。


 手作りのお菓子か。それはいいアイディアかも。男がお菓子を作れるって、ちょっと格好良いし。


「そっか。いいなあ、小鳥遊は料理ができて。俺にもお菓子の作り方、教えてくれない?」


「うん、いいよ」


 小鳥遊は人の良さそうな笑顔で微笑む。


「じゃあ、今度の休みに僕の家で一緒に作ろうよ」


「それいいな。ありがとう!」


 よっしゃ。これでホワイトデーのお返しは決まったな!


 ***


 ピンポーン。


「いらっしゃい、武田くん」


 インターホンを押すと、すぐに小鳥遊が出迎えてくれる。


「よく来たね、ささ、入って」


「お邪魔しまーす」


 俺が靴を脱いでいると、奥からトテトテとツインテールの幼女がやってきた。小鳥遊の妹、杏ちゃんだ。


「おや。冴えない男が家にいると思ったら、お兄ちゃまの自称親友、武田ではないですか」


「自称じゃない」


 俺は苦笑いを浮かべた。全く、小鳥遊の妹でロリ美少女じゃなかったらぶん殴ってる所だぜ。


「ところで自称親友、今日は何をしにここに来たでございますか?」


「だから自称じゃないって。今日はホワイトデーに女子に配るお菓子を小鳥遊と作りに来たんだ」


「へえ、武田にチョコをくれる女子がいるでございますか。それはびっくり仰天」


 なんか、いちいちムカつくロリだな。

 変な語尾をつけないとキャラ付けもできないくせによ。


 杏ちゃんはニッコリと笑う。


「手作りだからといって、変なものを入れてはいけませんよ? お兄ちゃまのチョコにも一つ呪いがかかったのがあって、幸いにも私が先に見つけたので処分しておきましたが、もし武田もそういうことをしようというのなら――」


「入れないよ」


 マジかよ。小鳥遊、呪いのチョコなんて貰ってたのか。


「それはそうとして、今日は何を作るんだ?」


 俺は小鳥遊に尋ねた。


「うん、配りやすいし、クッキーがいいんじゃないかと思って」


 小鳥遊が台所に案内してくれる。

 台所には、すでにケーキの材料や調理器具がずらりと用意されていた。


「クッキーか。いいね、ホワイトデーらしいし」


「でしょ? チョコチップとかナッツを入れても美味しいと思うよ」


「おお、美味しそうだ」


 俺と小鳥遊は、さっそくクッキーを作り始めた。


 クッキーのたねは、小鳥遊があらかじめ作って冷蔵庫で寝かせてあったので、あとはそれを伸ばして型抜きをし、焼くだけだ。


 良かった。お菓子なんて作ったことなかったけど、意外と簡単に作れそうだ。


「そういえば、武田くんは何人くらいからチョコをもらったの?」


 小鳥遊が無邪気に尋ねてくる。


「五人だな。ミカンにユウちゃん、桃園さん、それからクラスの女子二人……」


「そうなんだ。もっと貰ってるかと思ってた」


 びっくりした顔をする小鳥遊。いや、俺はもっと少ないかと思ってたんだけど。


「小鳥遊は?」


「うーん、十人かな?」


「十人!?」


 ちょっと待て、俺にもチョコをくれた五人の他に、姫宮さん、杏ちゃん……あと誰だ?


 俺の把握してない人が三人もいる!


「あ、杏も入れれば十一人だね」


 四人だった!


「そ、そうか……じゃあたくさん作らないとな」


 参ったな。まさか桃園さんのライバルがそんなにいたとは。


 まあ、まさか桃園さんのライバルになるほどの美少女はいないとは思うが、この世界はモブの女子でも充分可愛いから油断できないんだよな。姫宮さんとか渡辺さんとか……。


「そういえば、山田のやつもチョコ貰ってたよな。あいつ、お返しどうするんだろ。あいつもここに呼べばよかったかな?」


 いや、山田のことはどうでもいいんだが、山田がもし変なものを返そうものなら、チョコをあげた女子が可哀想だ。


 すると小鳥遊の顔が見る見るうちに曇っていく。


「武田くん……今は僕と一緒にクッキーを作ってるんだよ? 何で山田くんの話をするのかな?」


 およ?


「それとも、武田くんは、大親友である僕よりも、山田くんのほうがいいって言うのかい?」


「い、いやいやいや! もちろん小鳥遊のほうが良いに決まってるじゃないか。小鳥遊と二人でクッキーを作れて、嬉しいよ!」


「本当?」


「本当だよ。俺の親友は、誓って小鳥遊一人だ」


「そこまで言ってくれるなんて……嬉しいよ。ありがとう。さすが無二の親友だ」


 小鳥遊が右手を差し出してくる。俺はその手をぎゅっと握り返した。


「親友って、すばらしいね!」


「はは……ははは」


 俺の背中を変な脂汗が流れた。


 ま、まさかホワイトデーのクッキーを作るのにこんな展開になるとは。

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