負けヒロインの桃園さん~ラブコメ世界に転生したので推しヒロインを勝たせようと頑張ったらなぜか俺のフラグばかり立って困る~

深水えいな

第一章 

1.俺が人気マンガの世界に!?

第1話 桃園さんは負けヒロイン

「な、なんで桃園ももぞのさんじゃなくて、ユウちゃんと小鳥遊たかなしがくっついてるんだよーーーー!!」


 晴れ渡る空の下、俺は声の限り叫んだ。


「しっ、声が大きいよ、武田」


 親友の鈴木が俺の口を必死で抑える。

 けど、こんなの叫ばずにいられるだろうか。


 だって俺の愛読書『桃色学園がーるず』で、主人公の小鳥遊たかなしが、俺の推しヒロインの桃園ももぞのさんじゃない、別のヒロインとくっついたんだから。


 クソッ、いくらユウちゃんがアンケートで人気一位のヒロインだからって、こんなこと許されるのか!?


 タイトルにも「桃」が入ってるし、主人公の小鳥遊が初めに会うヒロインも桃園さんだし、一巻の表紙も桃園さん。


 例え人気が無かろうが、ポジション的にどう考えても桃園さんは正ヒロインのはず。

 最終的には小鳥遊とくっつくに違いない。

 そう思っていたのに!


 確かに、桃園さんは最近出番が少なかった。


 人気投票でも十一位で「影が薄い」とか「特徴が無い」とか散々な言われようではあったけどさ。


「クソッ、こんな事あるのか!?」


 またしても叫び出しそうになった俺の口を、鈴木が慌てて押さえる。


「全く、気持ちは分かるけどさ、先生に見つかったらどうするんだよ」


「わ、悪い悪い」


 ここは俺が通う並木坂高校の屋上。


 本来ならば立ち入り禁止なんだけど、カギが壊れているのをいいことに、俺と鈴木はここを秘密のたまり場としているのだ。


 俺らのような陰キャは、マンガやラノベの主人公たちのような華やかな生活はできない。


 けど、こうして屋上にこっそり忍び込んで、マンガやラノベ、ゲームの話をすることで、それなりの青春を楽しんでいた。


 俺は小さな声で嘆いた。


「うう、なんでだよ、桃園さん」


 落ち込む僕の肩を、鈴木はポンポンと叩く。


「気持ちは分かるよ。俺はユウちゃん推しだけど、正ヒロインは桃園さんだろうなと思ってたから。まさかの展開だよな」


「だよな、だよな!」


 俺は鈴木の手をがっしりとつかんだ。


 『桃学』の最新話を読んでから、ネットで色々な意見を読んだのだが、大部分の人の感想はそれだった。


 多くの人がこの展開に衝撃を受け、炎上し、その様子がまとめサイトに取り上げられる始末。


「でも桃園さんには山田がいるし、ユウちゃんは小鳥遊が居ないと駄目だから仕方ないのかな」


 ボソリと鈴木がつぶやく。


 ちなみに山田というのは桃園さんに思いを寄せる小鳥遊の親友キャラ。


 まあ言ってみればモブだ。


 そんなモブキャラが桃園さんと数合わせみたいに最終回でくっついたのも、俺は気に食わなかった。


「桃園さんだって小鳥遊が居ないとダメだから!」


「分かったから、そう興奮するなって」


 鈴木が俺をなだめる。だが怒りは収まらない。


「なんで桃園さんが小鳥遊とくっつかないんだよ、ちくしょう!」


 怒りに任せて屋上のフェンスを蹴る。


 ガシャン!


 衝撃で、フェンスが大きな音を立てて校庭に落下した。


 げっ、フェンスが外れた?


 しかもそれだけじゃない。


「――あれ?」


 ガクッと足を踏み外すような感覚。


 ぐらり、と地面が揺らぎ、空と地面が反転する。


 あれ、これ、ヤバいんじゃね?


 俺、屋上から落ち――。


「武田ーーーーっ!!」


 鈴木が僕の名を叫ぶ声が遠くなっていく。


 こうして勢いをつけてフェンスを蹴った俺は、地面へと真っ逆さまに落ちたのだった。



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