Observer’s

wetほっぷ

第一章  ―準備者―

第一節

 南東支部の一室。壁面に映し出された映像を見つめる、3人の姿があった。


「今日の任務は知ってのとおり、新たに発見された〝新種〟狩りだ」

 ロレンは手元の煙草を吸い、そして吐いた。


「この新種は上級エリアから、真っ直ぐこの支部に進行中だ。今日はこれを、中級エリアを越えられる前に討伐。コアと戦闘データを収集する」

 右手の携帯端末ポータブルを操作して、壁面の映像を切り替えていく。


「魔探知の反応によれば、18体の群れとなって進行中。午後6時には支部に到達する見込みだ。俺たちは準備を整え、14時に最上階で集合だ」


「今回は数も多いし、他のチームとか応援くんの?」

 ザックの発した言葉に溜息を吐きながら、

「残念だがザック、今回は無しだ。他所の支部が人手不足でな、うちの暇そうなチームは出払ってる」

 だが、と言ってティノに目を向ける。

「俺たちには姫の狙撃があるからな」


「そうです! 何体来ようと、私が全部撃ち抜きますよ!」

 そういったティノに対してザックが、

「ほほーん?」

「何ですか、兄さん」


 自分を見てニヤニヤとする兄に嫌悪感を抱く。この顔は、間違いなくからかってくる顔だ。内容によっては、シメる。


「いんやー、俺っちを撃たないように気をつけてくれよ? ゴ・シャ・ヒ・メ」


 シメる所じゃ済まさない。確実に息の根を止めます。絶対に。


「兄さん。必ず脳天に当てて見せますから、覚悟していてくださいね」


 鋭い眼光を放ってきた妹に、兄は身を震わせた。

 これ、洒落にならない奴かもしかして。まじで気をつけよ……。


「わ、悪かったってティノ。とりあえず、準備しに戻るぞ。な?」

「まったく……」


 詫びてくる兄だが、絶対に仕返しをすると決意し、携帯端末に目を向ける。

 時刻は13時を回っていた。出撃まで1時間足らず。

 準備の為に一度、家に戻らなければならない。往復を鑑みてもギリギリと言ったところだろうか。

 ならば、早く準備に行かないと。


「ほら兄さん、行きますよ」

「あ、おいティノ! 置いてくなよ……!」


 先に部屋を出て行くティノを追いかけるように、ザックも部屋から退出していった。

 ティノは相変わらず、ザックには厳しい。


「さて、と。開始時刻伝えておくか」


 携帯端末で自分のチームを担当する、オペレーターに連絡を取っていき、煙草に火をつけた。


「そういや、情報整理してから昼食とってないな」


 僅かだが感じる空腹感に、食べずに行くか、食べてから行くか思考する。

 そういえば、北西支部からカレーが輸入されたと、ベレニケが言ってたな。久々にカレーも悪くないか。

 そう決めたロレンは、煙草を吸いながら時刻を見る。


「まだ余裕あるな」

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