咲かない花
星野フレム
一 春花
昔むかし、この世とあの世を繋ぐ門が在った頃の話。
多くの人間達が、「地獄とはどういったものか?」
「本当にあの世なんてあるのか?」などと考えて行き来していたそうな。
ある者は修羅場の如く、本当の地獄を観て帰ってきた。
また、ある者は天界を観て夢気分で帰ってきた。
この物語は、そんな者達の行き交う門に小さく咲くはずだった、花の話。
花の名は、春花(しゅんか)と言う名前だった。
千年に一度の春に、咲くか咲かないかの貴重な花だった。
門を過ぎ行く人間達は、それは見事な蕾(つぼみ)に見とれたそうな。
ある日、その花を一目観ようという変わり者の娘が門を訪れた。
その娘が去った後、無残にも蕾だけがちぎられた、茎と葉が残っていた。
春花の中には精霊が住んでいると言う話を、蕾をちぎった娘は知っていた。
娘の名は椿(つばき)と言う。
綺麗な娘なのだが、己の欲の為ならばなんでもする。
そんな強欲な娘だった。
椿は、自分の家に帰ると、すぐに春花の閉じた蕾を開いた。
すると、赤ん坊の掌(てのひら)より小さな精霊が、スヤスヤと眠っていた。
椿は、その精霊に見とれていたが、ハッと我に帰り精霊を起こそうとした。
精霊を起こそうとした椿だったのだが、
何故か自分の体が小さくなっている事に気付く。
周りには見覚えのある、春花の花びら。すると、聴き覚えのある声がした。
「馬鹿だね。私を起こそうなんて千年経ったって無理なんだよ。それを承知で蕾をちぎるなんてね。お前は強欲だから、この体貰ってしまうからね」
目の前の椿の体を乗っ取った精霊は、蕾ごと小さな精霊の体の椿を持ち、春花のあった元へ走る。
「今ならまだ私の力で花を元通りに出来る。今度はお前がこの蕾の中で眠るといいさ」
こうして、今年も春花は咲かずにそのまま時が過ぎて行った。
椿の体を乗っ取った精霊は、娘の欲にけがれた家で、何不自由無く暮らした。
一方、椿は春花を元通りにされた後、直ぐに眠りについてしまった。
いつでも咲きそうな花は、欲に駆られた者達により、ずっと咲かないままだったそうな。
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