JobQuest

nemo

第1話

 音楽のように鳴り響く雨音。行き交う村人。水溜りに寝そべる私――人目を気にせず。

あぁ、全てを洗い流したい。

雨に打たれているのに不思議と冷たくはなかった。むしろ、私ひとりだけの世界にいるようで心が安らいだ。



 どれほど時間がたったのか、日は暮れかけていたが私には一瞬に思えた。


足音が近づいて来るのに気がついた。だが、それが誰なのか、確認をする気も起きなかった。

私の眼の前でボロのブーツが歩みを止める。

小さいな…

すると私の顔に光が差す。幼い少年がランプで私を照らし、しゃがみ込んだ。不思議そうな目で見ていた。ブロンドの髪でくせ毛の可愛らしい男の子だ。

「お姉ちゃんどうしたの?」

私に関わらないで。そう心で呟く。

「お姉ちゃん…お姉ちゃんもしかして――」

ああ、もうあの噂はここまで伝わってしまっているのかもしれない。

どこにも私の居場所はない。私はこの世界には要らないもの、そう自分でも分かって…

「もしかしてお姫様っ!?」

…?何故そうなったのだろう。頭が真っ白になった。どうやらまだここらにはあの噂は広まっていないらしい。…安堵した自分がいた。

「あの、私…」何を言おうとしたわけでもなかったのだが、起き上がり、少年と向かい合った。

「わぁ!綺麗なお洋服だね!…高そ〜…」

キラキラとした視線が痛い

「どうして泥だらけなの?水遊びしてたの?僕も雨が大〜好きなんだ!」

そういうと、少年はしばらく水溜りの周りを走ったり転がったり飛び跳ねたりした

「えへへ…ふ、ふぇくしっっ!!」

冷えてしまったのね…可哀想に私なんかに構うから、見渡すと周りはもうすっかり暗くなっていた。

「帰りなさい。もう日も暮れるし、それに風邪もひいてしまうよ。」

この少年から、何かキラキラしたものが溢れ、私に分け与えるようなそんな不思議な力を感じた。

「お姉ちゃんは?」

「お姉ちゃんはどこに帰るの?」

私?私は…私はどこに帰るの?いいや、帰る場所なんて無い。

「お姉ちゃんは誰?」

「私…は…誰?」

思い出したくもないあのこと…私は忘れることにした。

「おうちは?」

何もかも

「…分からない。」

「迷子なのー?お姉ちゃんったらかっこ悪いな!僕でもおうちわかるよ!」

こんなに小さな少年に呆れられてしまう自分が情けない。

「あのね、ぼくね、お兄ちゃんとお母さんとで暮らしてるの。お父さんはたまにしか帰ってこないの。」

少年の顔が少し寂しげに見えたのは気のせいではないはずだ。

「お父さんが帰ってくるの、楽しみなんだね。」

あまりに寂しげなのでつい声をかけていた

「だからね!お父さんの部屋使ってないの。お姉ちゃん来て来て!!」

そう言うや否や、私の手を掴んで引きずり出した。

「まっ、まって…」

抵抗する体力も残っておらず、ひたすら必死に少年についていくことしかできなかった。

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