うそいつわりのない剥き出しの感情
七森
わるいゆめをみた
「せんせいあのね、かみさまをさがしているの」
虫の声が聞こえる。
あの子は呪われているから、もっと早くに埋葬するべきだった。
葬儀はいらない。
あの子の遺書も写真も、お別れの言葉すら存在しない。
私たちの天使。私たちの醜い少女。きたないおんなになる前に。
彼女は、机の上に置かれていた鴉の死骸を埋めるために、スコップで穴を掘っていた。
彼女の服は泥で汚れている。どこかで引っ掛けたのだろうか、ワンピースから伸びる脚には、一本の切り傷がついていた。
ぼくはただぼんやりと、彼女を見ている。ぼくなんかに構うから、そんな目に遭うんだと思った。
土は湿っていたけれど、小石や木の根っこが引っかかるらしく、彼女はスコップを何度も突き刺している。
「ねえ」
ぼくが言葉を投げかけると、彼女は虚ろな目でこちらを見た。そして、いつも雨が降ると言った。
「何?」
「天使さまがいるの」
天使、というワードが似ても似つかない彼女の唇はカサカサに荒れていて、血が滲んでいた。
青白い手足に、小さな蟻が何匹も群がっていく。
「天井には穴があいていて、そこから天国が見える」
――わたしはそれを信じてる。
光を反射しない彼女の目から涙がながれて、青痣のついた頬を僅かに濡らした。
「かみさまをさがしているの」
おまじないのようにつぶやいた彼女は立ち上がり、鴉の死骸を抱くと、ふらふらとした危なっかしい足取りで、どこかに行ってしまった。
錆び付いたブランコの鎖が軋んで、嫌な音を立てている。
(20201029)
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