第151話 約束(3)

「なんで、おれがこんなことに巻き込まれなくちゃならないんだ、」


斯波は高宮の分の布団を敷いてやりながらぼやく。


「本当に、すみません…」


「明日、朝イチの新幹線で帰るって言うけど、もうあと4時間くらいしか寝られないんじゃないの?」


「もう、いいです。寝なくてもいいし、」


「ソレ、ほんと折れてるんじゃない? そんなに腫れて・・」


「それもどうでもいいです・・」


力なく笑った。


「で、どうなったの、」



斯波は一番気になることを聞いてみた。


「おれは4月には戻ってきます。 彼女にもそう言いました。 常務にもそう言ってあります。 ただ帰りたいからと言って、仕事も中途半端にしたくないから。 もっと、もっと頑張って。 きちんとして戻ってきます。 だから、彼女にも・・絶対に帰るからって約束をしました。」


少し嬉しそうにはにかんだ。



「彼女もうなずいてくれて。 おれのこと・・好きだって言ってくれたので。」


何故なのか。


その言葉に斯波はチクンと胸が痛んだ。


「そう。」


「その言葉だけで。 やっていけそうな気がします。」


彼の顔が


本当に幸せそうで。


温かく微笑んで。



こいつ


こんなヤツだったか?


秘書課には志藤さんがいるから、よく顔を出したけど。


いっつも難しい顔をして


笑った顔さえ見たことなかったし。


志藤さんの話じゃ、


ナマイキなクソガキだって。


いっつもふざけたことを言っている自分のこともバイキン見るような目で見る!って


怒ってたこともあったし。




だけど


今、ここにいるのは


28にしては


あまりにも純粋で一途すぎる男だ。





ところが


高宮は目覚ましの音で起きられなかった。


「おい、」


ベッドから斯波が手だけを出して彼を揺すった。


「ん・・」


苦しそうな声を出す彼に斯波は起き上がって様子を見た。


高宮はものすごい汗をかいて、いかにも具合が悪そうに寝ていた。


「高宮?」




その一方。


夏希はムクっと起き上がって、いきなり体中がものすごく軽くなっていることに気づいた。


なんて


爽やかなんだろ。



「どうしたの?」


萌香が気配で起き上がった。


「なんか、すんごい気分爽快なんですけど・・」


「え?」


彼女の額に触れてみた。


「熱・・下がったみたいね、」


「やっぱり? あ~、なんか昨日までの自分じゃないみたい、」


いつもの夏希に戻っていた。


「もう、」


萌香はそんな彼女を微笑ましく見た。


夏希はベッドから飛び起きて、


「あ~! 今日は働けそうです!」


といきなり張り切った。


「もう・・今日は28日よ。 仕事納めなのに。」


萌香は笑ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る