第125話 不安(3)
「あ~。 しんど。 もう休んでしまえばよかった、」
志藤は翌日の午後には大阪から戻ってきて、直接、出社した。
「お疲れさまでした、」
萌香がコーヒーを運んできた。
「お~、サンキュ。」
「お留守の間に事業部の方で、ムーンリバーミュージックの社長から真尋さんの今度のCDのことで連絡がありましたけど、」
「なんやって?」
「ジャケットの最終確認のことだったので、以前、会議の時にまとめておいた資料を持っていって確認してもらいましたから。」
とにっこり笑う。
「ありがと。 ほんま栗栖はおれがなんも言わなくても全部、わかっちゃってくれてるしなあ、」
「いえ。 本部長がいつもきちんと資料を整理していて下さるからです。」
手柄を自慢するわけでもなく。
萌香はサラリと言った。
ほんまに
彼女が秘書としてついてくれるようになって、仕事が格段にやりやすくなった。
煩雑な仕事は全部引き受けてくれるし。
気が利くし、なにより
連れて歩くのが、鼻が高いほど
キレイやし。
美人秘書って
いい響きや~~~。
ひとりニヤけてしまった。
それにしても
あのコ。
志藤は水谷理沙のことを思い出す。
高宮のことを
ほんまに頼り切ってて。
信頼してて。
あいつのこと
ほんまにうれしそーに…
話して。
あまりにわかりやすい乙女心に胸がきゅんとなってしまう。
高宮は
けっこうああ見えて、情が深かったりするし。
あんな小動物みたいに守ってあげたくなってしまう彼女がいたら。
男なら気持ちが揺らいでしまわないんやろか。
余計な心配を
ついついしてしまう。
「あ、本部長! おかえりなさーい。」
夏希が部屋に入ってきた。
「おまえは。ウチの娘か?」
笑ってしまった。
「は?」
「お父さん、おかえりなさーい、みたいな。」
「え~? じゃあ、何て言えばいいんですか、」
夏希はそんなことでウケる志藤に口を尖らせた。
「高宮、めっちゃ頑張ってたで。」
彼に
彼女のことを伝えたように
そう言ってみた。
「え・・」
夏希は少しドキっとした。
「ほんま。 大変みたい。 大阪は人、こっちより少ないから。 秘書なんてほんま雑用もせなアカンから。 なんかげっそりしてたし。」
「だ、大丈夫なんでしょうか、」
何だか心配になってくる。
『別れたくない・・』
彼の言葉を思い出すが。
ここは
二人の盛り上がりを願って。
余計なことは言わないでおこう…
志藤は笑顔を夏希に返しただけだった。
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