第124話 不安(2)

「おまえでも、そんな気持ちになること、あるんや。」


志藤はまたニヤっと笑った。


「え?」


「いっつも人をバカにしくさったような目えして。 ほんまいけすかないガキやなって思ってた。 ずっとアメリカに行っていたせいか、考えもめっちゃ合理的で、ドライやし。 でも、ま。 人並みに不安とか心配とかあるねんな、」


「おれだって、そりゃ・・」


「万が一。 芦田さんが正式に大阪支社長になるときがきたら、間違いなくおまえにも残って欲しいっていうやろな。 芦田さんはなんやかんや言うておまえのことめっちゃ気に入ってるし。」


ドキンとした。


「でも。 社長からの話では半年間だけ、いうことやったし。 芦田さんはともかく、おまえには断る権利はある。」


「・・志藤さん、」


「それとも、心配で帰れなくなる?」


また


見透かしたような顔して。



「あの子、ほんまちっさくてカワイイもんなあ、」


「え?」


「支社長秘書の子、」


「水谷さん、ですか。」


「ほんま、放っておけない感じするし。 ついつい構いたくなってしまうし、」


「さすが。女の子には目ざといですね、」


高宮は頬杖をついて、小さなため息をついた。


「加瀬とは大違いやな、」


いきなり夏希の名前を出されて、急に胸がドキドキしてきた。


「遠距離恋愛、してるわけやないの?」


ズケズケと聞いてくる彼に、


「そんなんじゃ。 メールや電話は…してますけど。」


「けっこう頑張ってるで。 あいつも。 今は沢藤絵梨沙の付き人みたいなことしてるけど。 外に出る仕事やとイキイキしてるもんな。 相変わらずアホなことしてるけど。 エリちゃんとこの子供ともすぐに仲良くなって。 この前もなあ…」


志藤は思い出して笑ってしまった。


「エリちゃんとこ行ってなかなか帰ってけえへんねん。 携帯も繋がらないし。 んで、彼女んとこ電話したらな。子供と庭で遊んでて。 あそこの家、広い庭に池があるねん。 コイとか泳いでる感じの。 ヒコーキをそこに落としてしまったらしくてな。 それを取ろうと思って、あいつ池に落ちたんやって、」


「はあ????」


「子供やなくて、あいつが落ちてんねん。 それで、真尋のジャージかなんか借りてな。 あそこの運転手さんに家まで送ってもらって、着替えてて遅くなってもうたんやって。 んで、携帯も水に濡れてツブれてしまって。」


想像して


思わず吹き出してしまった。


「ほんまやることマンガかって。 そんなやけど、まあ、張り切って仕事してるわ。」


「そう、ですか。」


彼女の話を聞くと


また、どうしようもなく


会いたくなって。


「東京に帰りたいなら、きちんと言うべきや。 んで、ここもおまえがいなくてもやっていけるようにしておくことやな。」


志藤は真面目な顔になってポケットからタバコを取り出して口にくわえた。


「このまま、加瀬と別れたくないんやろ?」


酔いが回ってきた頭で


半分自分じゃない人間がしゃべっているように。


「別れたく・・ないですよ。」



そんな言葉が自然に出た。


「ていうか。つきあってもいないんですけどね、」


それが悲しかったが。


「加瀬は。おれが見た感じでは。 おまえのこと前より意識してるんとちゃうかな~~って。」


志藤は軽い調子で言ったのだが、



「え! 本当ですか?」


高宮は身を乗り出して食いついた。


「って、感じってこと。 おれもあいつの頭の中、ようわからんもん。」


彼の予想外の反応にのけぞった。


悲しそうな顔して


ヤキイモのことを考えてる女やで…


そうも言いたかったが。

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