第72話 乱反射(4)

しばらくすると彼女は寝室に戻ってきて、いきなり彼の掛け布団をひっぺがし、


「ちょっと失礼!」

と、彼の部屋着のおなかをめくる。


「なっ…!」


いきなりのことに赤面していると、お腹の上にあったかいタオルをビニール袋に入れたものを乗せた。


「おなか痛いときってあっためると楽になるんですよね~。」

夏希はにっこり笑って、そっとおなかを撫でてやる。


確かに

気持ちいいけど。


しかし

こんなに優しくお腹をなでられると…


「だ、大丈夫だから・・」


やんわりと彼女の手を制した。


「え?」


「ほんと…」



これ以上

こんなんかされたら

自分の体に"異変”が起きそう…



夏希はまたもいきなり彼のオデコに手をあてた。


いちいちドキドキする。


「熱もありますね。 ちょっと待っていてください、」


またも部屋を出て行く。


今度は冷たくしたタオルを彼の額に載せた。


「あったかいのとつめたいので、体がびっくりしちゃいそうですね、」

夏希は屈託のない笑顔で言った。


「ありがとう。すっごい、気持ちいい・・」


「少し眠ったほうがいいです、」


「うん・・」


目を静かに閉じると、お腹の痛みも不思議に消えてすうっと深い眠りに落ちてしまった。


傍らで彼の寝顔を見ていると

この前の夢で彼からキスをされたことを思い出してしまった。


なっ

なんてことを…。


夏希は一人赤面し、頭の上の妄想を手で払った。



「さてと、」

軽く片づけをして夏希は帰ろうとしたが。


そうだ

鍵をしめてもらわなくちゃ


そっと彼の寝室をのぞくと、あまりにも気持ちよさそうに寝ているのでとても声が掛けられない。


どうしよう。


困ってしまった。




明け方に猛烈に喉が渇いて、ベッドから起き上がった。



あ~、すっげ、寝た。


ふらつく頭を押さえつつ、高宮はキッチンに向かった。


冷蔵庫からイオンウオーターを取り出して少し口にした。

一息ついてまた寝室に戻ろうとした時。


「えっ!!」


さっきは全く気づかなかったが

リビングのソファで夏希がスヤスヤと眠っている。


「加瀬・・さん・・?」

その状況をボーっとした頭で整理する。


そうか

鍵を閉めて行かれなくて

おれが寝てたから・・。


すぐにそう悟った。


悪いこと、しちゃったな。


彼女のおかげか

心なしか体は少し軽くなっていた。

あまりに無防備に眠る彼女の寝顔を見ながら


…かわいいなあ。


素直にそう思う。

化粧っ気もほとんどなくて。

健康的に焼けた肌が印象的で。


笑顔が

何とも言えずに

あったかくて。


今まで

つきあってきた女の子の中に

こういう子はいなかったな。

彼女より

美人はいたけど。


だけど

一緒にいてこんなにホッとする子は初めてだ。



「ん・・」

夏希は寝返りを打とうとして、危うくソファから落ちそうになったところを、


「おっと・・」

慌てて支えて、元に戻してやる。


彼女の寝顔があまりにかわいくて。

高宮は吸い込まれるようにその唇に自分の唇を少しだけ重ねてしまった。


「・・う・・ん・・」


夏希が起きそうだったので、慌てて離れた。



なにやってんだ

おれは…


無意識の行動に思わず赤面した。


ごめん…。


彼女の頭をそっと撫でた。


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