Feel

第73話 接近(1)

「加瀬さん、加瀬さん・・」

夏希はその声で、


「ん・・?」

ぼんやりと目を覚ました。


「あれ・・?」

ボサボサの頭でのそっと起き上がる。


「ごめん、帰れなくて・・」

高宮は彼女に言った。


「え? あ~、なんか気持ちよさそうに寝てたんで、起こすの悪いと思って。 あ、具合、どうですか?」

思い出したようにそう言った。


「うん、まだちょっと腹は重い感じだけど、熱は下がったみたい。 ありがと、」


「よかった。 朝ごはん、食べれそうですか? なにか・・」

夏希は立ち上がった。


「りんごがゆとかじゃないよね・・?」


高宮はとっさにそう言った。


「は?」




夏希はとりあえず、普通のおかゆを作った。


「昨日もこれでよかったんだよな…」

つぶやく高宮に、


「は?」

お茶を淹れてきた夏希は聞いた。


「や、なんでもない。 おいしいよ。 ありがとう、」

ひきつった笑いで答える。


「まだ今日はお休みしたほうがいいですよ。 今は夏休みで常務もお休みって聞いてるし。」


「うん・・」

高宮はそう言って彼女の顔をじっと見た。


「なん、ですか?」


「すっごい寝癖がついてるよ、」


「え!」

夏希は慌てて自分の頭に手をやった。


そして慌てて鏡の前に行き、


「わ!ほんとだ! ただでさえ、全然美容院行かれないのに・・も~~!!」

その慌てようがおかしくて高宮はおかゆを食べながら笑ってしまった。



「あ、本部長。 おはようございます~。」

夏希は出社すると、すぐに秘書課の志藤のところに行った。


「おはよ、」

志藤は頬杖をつきながら新聞を読んでいた。


「あのう、高宮さん、ナントカ大腸炎になっちゃって。 今日もお休みするそうです。」

と報告をした。


「え?」


志藤はようやく彼女に目を向ける。


「なんか熱も出ちゃったりして、けっこう大変そうでした。」


勘のいい彼はすかさず、


「え、あいつんとこ行ったの?」

少し驚きつつそう言った。


「あ、はい、」

夏希はケロっとした顔でそう言った。


「ん?」

志藤はまたも彼女を凝視し、


「・・泊まったの?」


と言ったので、


「えっ、」


夏希は驚いた。


「昨日と同じ服…」


鋭い指摘に、


「か、帰ろうと思ったんですけど! 高宮さん、すっごい深い眠りに落ちちゃって。 鍵開けっ放しで帰るわけにいかないじゃないですか、」

必死の言い訳をした。


「いっくらなんでもさあ。一人暮らしの男のとこに泊まっちゃうなんてまずいんちゃうのぉ?」

わざと意地悪く言ってみた。


「でも! 苦しんでる人を放っていけませんよ! もし、本部長が独身でひとりで苦しんでたら、ちゃんと看病しますよ!?」

夏希は狼狽してそんなことまで言い出した。


「そうかあ・・泊まっちゃったか。ついに・・」


志藤はひとり言のようにそう言ってまた新聞に目を移した。


「ですからっ!!」

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