第64話 意識(2)
「高宮さんのお兄さんが亡くなったことは知ってますか?」
夏希は萌香に聞いた。
「ううん。」
「跡継ぎだったお兄さんが交通事故で大学生の時に亡くなったそうです。 それから、高宮さんが周りの期待を背負うようになって。 自分はお兄さんの代わりをさせられてるだけだって言うんです。そしたら、おれが死ねばよかったって。 そんな風に言ったんです。すっごい、悲しいと思いませんか?」
彼にそんな過去があったなんて全く知らなかった。
「うん、」
「かわいそうって言ったら失礼だけど。 高宮さんは高宮さんでいられるように、もっともっと人生を楽しまなくちゃいけないんじゃないかって。 きっと心のどこかで高宮さんもそれをわかっているんじゃないかと思うんです。 そんな時、あたしに会ったから。 興味があっただけだと思うんです、」
「そんなことないわよ。 高宮さんはそんな風に思ってないと思う。」
いつもは
もうむちゃくちゃな言動でみんなを驚かせている彼女が
こんなにも
きちんと彼のことを考えていたのか、と思うと
萌香は少しオドロキの気持ちだった。
「あんな大人の人に言うのも失礼ですけど。高宮さんは勘違いをしているだけだと思うんですよ。」
「私は加瀬さんみたいな子がすっごくうらやましいけど。」
「え~?」
萌香のような非の打ち所のない女性にそんなことを言われて驚いた。
「裏表がなくてさっぱりしていて。 明るくて。 元気で。 あなたがそこにいるだけで、その場がぱあっと明るくなって。 ほんとにひまわりのような。」
「褒めすぎですよお・・」
夏希は大いに照れた。
「ううん。 あなたの明るさが周りの人を幸せにする。 きっと高宮さんもそう思ってるんじゃないかしら。」
「栗栖さん…」
「そうね。 焦らないで。今までと同じに楽しくやっていくのもいいかもしれないわね。」
夏希を安心させるように優しくそう言ったが、
でも
なんだか
自分が傷つかないようにしているようにも見える。
萌香はニコニコしながらアイスクリームを食べる夏希を見て思った。
好きにならないように
してる?
微妙な女心かな。
彼のことを特別に
思いたいような
思いたくないような。
そんな
胸がきゅんと痛くなるような恋を
できるのは幸せ。
この子には
恋に傷ついて、泣いたりして欲しくないけど。
もし
そうなっても
いつでも
手を差し伸べてあげよう。
さっき
言ったことは、本当で。
まっすぐに本当に素直に育ってきたと思われる彼女が
羨ましくて。
私も
この子のように
生きてきたかった。
萌香は頬杖をついて、夏希がおいしそうにアイスクリームを食べるのを微笑みながら見ていた。
「栗栖さん、アイス溶けちゃいますよ。」
と言われて、慌ててスプーンを手に持った。
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