第60話 波跡(1)

そしてようやく夏希はウエットスーツとボードを借りて海に出た。

基本的なことを高宮から教わり、


「もう海に入ってもいいですかあ?」

と言い出した。


「まだ1分くらいしか説明してないじゃん。」

高宮は呆れる。


「説明聞いただけでできそうな気がするんですよ。 あたし、泳げますから大丈夫ですって。」


だから、どっから沸くんだその自信。


「そんな甘くないって、」

笑いを堪えながら言った。


実際

もちろんサーフィンはそんなに甘くなく。

夏希はボードに乗るどころの騒ぎではなく、何度も海に落っこちた。


「え~~? なんでダメなんだろう。」

まだ初めて1時間ほどだと言うのに。


「だから、そんなにすぐ乗れるようにならないって。 もうお昼だから一回上がろうよ、」

高宮が言うと、


「もうちょっと! もう少しでイケそうな気がするんです!」

夏希はまたも沖に出て行ってしまった。



負けず嫌い丸出しで。


高宮のほうが飽きてしまって、浜辺でぼーっとしていた。


腹・・減った。

昼飯も食わず。

結局もう3時だし。


すると、


「高宮さん! 見て!」


夏希の声がして目の前の海に目を移す。


なんと

へっぴり腰ではあったが、何とかボードの上に立って波に乗れていた。


「お・・すごい!」

思わず立ち上がる。


夏希は嬉しそうにボードを抱えてやって来た。


「ね、できてたでしょ??」

嬉しそうに白い歯を見せながら言う。


「すげ~。たった数時間で、」


「やった~~!! でも、乗れると楽しいですね! もうちょっとやってこよう!」

夏希は喜び勇んで海に入っていってしまった。


メシ・・・


高宮はそれも言いそびれ。



そして、その後

彼女は完璧に波に乗れるようになってしまった。

その運動神経に高宮は唖然としてしまい。


「すごいねえ、」

いつの間に他のサーファーの人たちからも褒められたりしていた。


「ありがとーございまーす!」

嬉しそうに頭を下げた。


ほんと

すごい子だなあ。


キラキラ光る水面の中の彼女は本当にまぶしかった。


「楽しかった?」

高宮は荷物を車に積み込みながら彼女に言った。


「はい! も~、すっごい楽しかったです! ウエットスーツも買っちゃおうかな~。 また、やりたい!」

夏希は元気に答えた。


「そう。 でも・・本当に短時間でめちゃくちゃうまくなったな。」


「でしょ? 漢字は自信ないけど、運動神経だけは自信あるんです! もう、脳みそまで筋肉だと思うんですよ、」

と張り切って言う彼女にまた笑ってしまった。


「で、メシにしていい?」


「へ?」


もうお昼ごはんも食べていないことさえ、夏希は忘れていた。

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