第51話 孤独(3)

「アメリカに行ったのは兄貴の影から逃れたかったからで。別に勉強したかったわけじゃない。 兄貴を越えたくて。 おれって人間を周りに認めて欲しくて。 だけどみんなはおれがオヤジの跡を継いで政治家になるために必死で勉強してると思ってる。 おれが何をしても無駄なんだ。」


高宮は真っ直ぐに前を見て。

アクセルを踏む。


この人は

さびしい人だったんだ。

自分を見て欲しくて必死で。


夏希は今まで見たことがない高宮の中の

孤独

を感じた。


誰もが羨むエリート人生を歩んできたのかと思っていた。

彼の寂しさを

きっと誰もわかっていなかったのかもしれない。



「あたしは今まで生きてきて、つらいとか、苦しいだとかあんまり思ったことなくて。 毎日が本当に楽しいから。 いつも、明日が来るのが待ち遠しいんです。」


「え…」


高宮はチラっと彼女を見た。


「そりゃ嫌なこともたくさんありましたけど。 毎日があることは、幸せなことです。」


高宮は


全身に鳥肌が立つ想いだった。



「自分が死ねばよかったなんてこと。 絶対ないですから。つらいこともあるかもしれないけど、生きてなければ楽しいこともないじゃないですか。」


きっと

彼女は意識して深いことを言っているんじゃないんだろう。

自分の気持ちのままに。


自然と

そんな言葉が出てくるのって

この子は本当に大切に育てられてきたんだ。

彼女がこうして横にいるだけで

落ち着く。



いっぱい空気を吸い込んだら

ちょっとだけ気持ちが静かになった。



「わー! きれい! 夜のレインボーブリッジって壮観ですね~!」

橋がすぐそばに見えるスポットで高宮は車を停めて降りた。


「ここは、初めて?」

「昼間は友達と来たことがありますけど、夜は初めて!」


本当に

笑うと

ひまわりみたいに。


そこだけ

ぱああっと明るく輝く。



「うちのお母さんも見てみたいって言ってたなあ。」

と見上げると、


「お母さん・・ひとりできみを大学まで出して。 大変だっただろうね、」

少しまだ見ぬ彼女の母親に思いを馳せた。


「うーん。 そうですね。 大変だったと思います。 もう高校出たら働こうって思ってたんですけど。 大学から野球で推薦来てて。 野球はそこまでやってみなって。 嬉しかったですけど、」


「いい、お母さんだね。」


「も、いるとうるさいだけなんですけどね! あたしよりしゃべるし!」

夏希はアハハと笑った。


「加瀬さんより、しゃべるの??」

それも想像してしまった。


「実家に帰ると二人だけなのに、もう10人分くらいのうるささですよ。 あたしは母と顔も性格もそっくりって言われるし。」


「へえ。」


いつの間にかに、やりきれない気持ちもどこかへ行って。

彼女の真っ黒できらきら光る瞳に

引き込まれて。


ああ、やっぱり。

おれはこの子が好きだな・・。


なんでかわからないけど、

自分にないものを全て持っている彼女が

自分には、ものすごく必要な気がする。

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