第5話 始動(5)
本当に
何なんだあの人は。
高宮は高宮でトイレで手を洗いながら憤慨していた。
北都社長から声をかけられて。
迷ったけれど日本に戻って仕事をすることにした。
おれの専門が経営だったから、ブレーンとして真太郎を助けて欲しいって言われて。
それも悪くないなと思い、来てみたら。
とりあえず、常務の秘書やってくれ、だし。
秘書って。
約束、ちがうだろ!
そう思ったけど。
おれはマネージャー的仕事の秘書じゃなく。
自分の力で会社を動かす秘書になりたいと思って、今は我慢をしている。
絶対にここで登りつめてやる。
そうじゃなかったら
家を出た意味がない。
鏡の中の自分をキっと睨んだ。
一方
すっごい
本の量。
よくここまで積めるなあ。
なんかジェンガやりたくなっちゃった。
夏希は新入社員らしく、朝は誰よりも早く来て掃除をしようと張り切ったが、一番窓に近い隅っこにある斯波のデスクは大変なことになっていた。
いろんな雑誌や専門誌。
ファイルなんかはご丁寧に崩れないように互い違いに積んであって水平が保たれている。
触っちゃいけないよね。
夏希はそう思うのだが、
いけない、いけない、と思うと自然に手が伸…。
素晴らしく芸術的に積まれていたそれたちが、押入れを開けたら適当に入れた布団がどどっと崩れ落ちていくかのように全て床に落ちてしまった。
「わーっ!!」
反射神経だけはいいので、危うく自分には被害は及ばなかったが。
「何をしてるんだ・・?」
おどろおどろしい声が聞こえて振り向いた。
「し・・斯波さん…」
普段から怖い顔がもっともっと怖くなって、
「おれの机に触るなっ!!」
一喝された。
「すっ・・すみません、すみません! 掃除をしようと思って!」
夏希はコメツキバッタのように頭を下げて謝った。
「掃除なんかしなくていい! どけっ!」
と彼女を押しのけて片付け始め、それを手伝おうとすると、
「触るなって言っただろ!」
また怒られた。
「もう。 なに怒ってるの? 外まで聞こえたよ、」
南がやって来た。
「あ・・あたしが、掃除をしようと思って…。」
夏希が最後まで話をしなくてもその状況は把握できた。
「よけいなことはするな!」
また怒られたし…。
南はため息をついて、
「いいって言ってんだから、ほっとけばええやん。 余計なことすると怒られるからしないほうがいいよ、」
と夏希の背中をポンと叩いた。
「も…もし、あたしにできることがあったら何でも言ってください!」
それでも体育会系の彼女らしく怯まずに斯波に言ったが、彼はブスっとしたまま片づけを続けてそれに答えもしなかった。
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