第2話 始動(2)

「もう。 新しい子、来てんねんで。 挨拶、挨拶。」

南は彼の背中を押した。


そして、

彼は夏希を上から下まで舐めるように見た後。



「でっかいなァ・・」



発した言葉がそれだった。


「いきなり若い子に失礼です、」

萌香がやんわり注意した。


「あ、ごめんね。 おれ、クラシック事業本部長の志藤。 よろしくね、」

その男は無敵の笑顔でそう言った。


クラシック事業本部長って

言ったよね。

え?

この人が

ここで一番偉い人??



いろんな人の見本市をいきなり見せられた夏希は目が回りそうだった。


「んじゃあ。 頼む。」

斯波は南にそう言って、すーっといなくなってしまった。


「ちょっと! なに? 責任者としてどうよ!」

その後姿に南は吠えた。


「しゃあないやん。 あれが斯波やから。 おまえ、そういうの得意やんか。 じゃ、おれも会議に。 栗栖、行くで。」

志藤も萌香を促して消えた。


夏希はその様子をただただ呆然と見送った。




「では。」

南は夏希を見上げた。


「はい!」


「もうランチ行こうか? 11時過ぎたし。」

時計を見る。


「え! いきなりランチ?」


「ま、初日やし。 いこ、いこ。」

と彼女の腕を引っ張った。


「あの人・・・」

社内を歩きながら夏希は南に話しかける。


「え?」


「本当に事業部の本部長なんですか?」


「え? ああ、志藤ちゃん? ウン、そうだよ。 年はね、まだ40なんやけど。 いちおう、取締役も兼務してるんやで、」

その言葉にさらに驚いた。


「取締役!?」


「彼が10年前にこのクラシック事業部を立ち上げて。 元々大阪支社の人やったんやけどな。 そのために社長に呼ばれて。 今は『北都フィルオーケストラ』を中心に仕事展開してる。 オケ作ったのもあの人やねん。」



「へえええええ。」



長い感心音を発してしまった。



「二丁目かなんかのホストかと思ったやろ?」

否定できないが、うなずくのも憚られ苦笑いでお茶を濁した。


「彼が取締役になってから、斯波ちゃんが実質上事業部の長になって。 またあの男も無口でね。 顔、怖いし。」

これもうなずけなかった。


「でも、二人ともすっごく仕事できるの。 志藤ちゃんは今、秘書課といったりきたりで。 ウチのダーリンとも一緒に仕事してる。」



「ダーリン??」



思わず聞き返した。

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