My sweet home~恋のカタチ。1--cherry red--
森野日菜
Spring
第1話 始動(1)
なんか緊張する。
都会も都会。
ここは青山
よしっ!
気合を入れて自動ドアをくぐった。
女子体育大学をこの春卒業し。
ひょんなことからこの『ホクトエンターテイメント』という芸能社に就職した。
1週間の研修を経て、今日はいよいよ部署に配属の日。
ドキドキしながら総務部で”お迎え”を待つ。
背後に気配を感じて、ふっと振り向くと。
白シャツに革パンツのヒゲ面の大きな男が立っていた。
「ひっ!」
思わず席を立つ。
なんて眼光のするどい人だろう・・
「ああ、彼がきみが今日から所属になるクラシック事業本部の責任者の斯波くんだよ。」
総務部長が紹介してくれた。
え?
なに?
クラシック事業本部の責任者?
この人が。
福島から大学進学と同時に上京したが、学生寮に入っていてグラウンドと大学の往復で東京ライフを全くエンジョイしてこなかった彼女にとっては、初めて出会う種類の人間だった。
ハッとして、
「かっ・・加瀬夏希と申します! よろしくお願いいたします!!」
よく通る大きな声で思い切り頭を下げた時に、後ろのコピー機におしりをぶつけ、
「わっ!」
と慌てて体を離すと、脇にあったゴミ箱を倒してぶちまけてしまった。
「あ~あ、なにをやっているんだよ、」
部長が拾ってくれた。
「す、すみません。」
そのままその『大きな人』についていった。
エレベーターで5階にいって、廊下を歩いていると社長室だの秘書課だのがあって、前を歩くのも緊張する。
そして突き当たりの、まるで
ついでですよ
と言わんばかりのひっそりとした場所に
『クラシック事業本部』はあった。
『大きい人』はそこのドアをバタンとあけた。
みんな一斉に顔を挙げ、自分に注目することが感じられた。
「あ、新しい子や、」
大阪弁が耳に入り、驚いた。
「こんちわ。」
目の前に力強い瞳が印象的な派手な女性が立った。
「かっ加瀬夏希と申します! よろしくお願いします!」
ことさら力を入れて挨拶をすると、その人は彼女を上から下までじっと見て、
「でっかい子やなあ・・」
感心したように言った。
身長は172cm。
その小さな彼女を見下ろした。
「声もデカいし。」
「すみません・・」
思わず謝った。
「ま、ええわ。 みんな、集まって、」
その『小さな人』の一声でみんなが集まった。
しかし、場が固まったままなので、
「ちょっと! 斯波ちゃん、紹介しなさいよ!」
『小さな人』は『大きな人』に言った。
「え? 面倒くさい。 適当にやって、」
『大きな人』の声を初めて聞いた。
「めんどくさいて。 ま、ええわ。 年の順な。 ってあたしか。」
ひとりノリツッコミをしたあと、
「あたし、北都 南。 ここの企画担当。 年は・・・。 いくつに見える~?」
固まっていると、
「合コンじゃないんだから、」
どこからかつっこまれて、
「ああ、そうか。 35。」
とっても35に見えないほど、カワイイ女性だった。
そして、その隣の男性が
「ぼくは玉田康介。 入社9年目の32歳です。 どうぞよろしく、」
柔和な笑顔を見せて挨拶をしてくれた。
そしてその隣にいたのが、恐ろしくキレイな女性だった。
「
き・・
きっれーな人。
東京ってすごいなあ。
夏希は感心してしまった。
「で。この人が。今ここの責任者をしている斯波清四郎。 あたしと同い年。 元々、クラシックの雑誌の編集者しててな。 ここに来たのはもう5年前くらいになるかな。 って、あんた自分で紹介しなさいよ。」
北都南は『大きい人』の背中をパチンと叩いたが、彼はそ知らぬ風にタバコを吸っていた。
「あとねえ。 もうひとり。 うちの末っ子で、八神慎吾ってのがいるんだけど、今海外出張中なの。 帰ってきたら紹介するから。」
「大事な人を忘れていますよ、」
玉田が彼女を小突いた。
そこに、
「今度の受付の新人はまあまあやな、」
また
関西弁???
「あ、志藤ちゃんってば。 どこ行ってたの?」
『志藤』と呼ばれたその男。
やっぱり背が高くて。
メガネで。
ちょっとパーマがかかったロン毛で。
「受付にカワイイ子、入ったで~。 これで毎日会社に来る楽しみがあるというもの。」
そして
いい男・・・。
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