第19話
さて、その元人里の状況だけど……
「なんか、
いやホント、これで転がってる死体の山が魔物共のだったら、完璧にこれまでの旅の軌跡ですよ。
にしても、まあ……なんだ、最初も最初でそれはそれは衝撃的だったけど、コッチは絵面の時点で凄まじいよね~。僕個人としては、若干既視感を誘われる光景ではあるけど。
「さて――取り敢えず、刑事さん宜しく現場検証から始めようか」
せっかく現場百篇の精神で行動を始めたんだからネ、と口に出して自分に言い聞かせてみたけど、やっぱり気が重い。
だってさ、ココ戦場なんだよ?
こんな所で調べものって言ったら死体か、
そんなの誰だってやりたくないって思うよね?
そりゃあ、自分の身体がバラバラに解体されるのを六桁回ぐらい見せ付けられてるから、今更血とか肉とか骨とか内臓とかを見せられた所で如何って事ないけど……
なんて言えば良いのかな……そう、例えばさ、誰だって伸びすぎた爪や髪を切って捨てるじゃん?
で、その切り落とした爪も髪もワザワザ探し出して触れようなんて思わないでしょ?
そんなカンジで、自分の一部だった物でもなんとなく抵抗感あるのに、更に他人の物となれば猶更でしょ?
僕が今抱いてる拒否感の内情はそんなモノかな。
でも、結局は幾ら心情的にイヤでも調べてみない事には何も始まらないんだから、頑張って我慢するしかないんだけど……ハァ。
まあ、検死じゃないからジンニクを直接イジイジしないで済むのが慰めか……どれどれ――
変身していなければ口がへの字になっていたであろう精神状態とは裏腹に、良く言えば気安い――悪く言えば冒涜的な――手付きで、比較的綺麗な
「巾着は……カラか。そんじゃあ、懐は……まさか比喩じゃなく実物に向かって言う日が来るなん――げぇ!? おにぎりが潰れとる!? こんな時代に貴重な食料をゴミにするとか、どんな神経してんだ!? ――って、別にワザとじゃないだろうけど」
途中、血塗れの頭と唐竹割りに振り下ろされて眉間の辺りで止まってる刃を視界の外に追いやり、ムワリと漂う汗の悪臭をノータッチで塞いだ鼻孔でシャットアウトしつつ探索を続行。
「――他になんか詳しい年代が分かりそうな物は、持ってない……よね。ハァ……コレが世界大戦の時代なら、まだもう少しなんかあるだろうに……」
奮闘虚しく戦果はゼロ――汗と血でグチャグチャのおにぎりに価値を見出せるのが世の中的な平均だって言うなら、一つはカウントしても良いんじゃないかもだけど……
あとは……あ! 背中の幟に描かれている家紋を確認して、誰と誰が起こしたなんて名前の戦いか分かるんじゃね!? さっすが辰巳きゅん、冴えてるぅ♪
って、ワザワザ《戦国》なんて冠被ってる時代に何百回合戦が起きたと思ってんだ! 中一の教育課程でそんなの全部網羅できる分けないだろ! 専攻の大学院生でも厳しいわ!
なんて、あーでもないこーでもないと首を捻るけど、結果は芳しくない。
――って言うか、ココに拘る必要も無い気がしてきた。
そもそも僕が知りたいのは自分の時代への帰り方なのであって、それぞれのキューブがどんな時代に通じているかとか、その時代での出来事なんて知る必要無いし。
それに、もし僕の行動が元でタイムパラドックスでも起きたりしたら、それこそ大問題だ。
歴史の教科書に変化が起きる程度なら(どうでも)いいけど、最悪、父さんも母さんも兄さんも、誰も彼もが居なくなるなんて事にもなりかねない。
しかも、だ。
僕の予想通り、ホントに前回のキューブが縄文時代で今回のキューブが戦国時代なんだとしたら、キューブタワーの縦軸は上に行くほど時間が進むって考えられる。
そうなれば、もっと上に行けば僕が居た時代も見付けられるって事にもなるワケだ。
前回のキューブが縄文時代だって事は、あそこで出会った人達の格好や住居を見れば一目瞭然。もう、疑いようが無いってくらいの縄文時代だよね。
ん? 『肝心の土器はあったの?』、『時代の名にもなってるのに見てないの?』だって?
確かに、縄文土器そのものは見かけてないし、例えあったんだとしても土製な所為かソナーにも引っ掛からなかったよ。
けどさ、高床式倉庫の中からまるで容器にでも入れられてるように一か所に纏まって浮遊してる沢山の木の実を探知できたんだ。
僕も初めて知ったけど、魔力ソナーって《ソナー》なんて表現のワリに密閉されてなければ魔力が中まで侵入して中身まで探知できるみたい。
これで、少なくとも『食料を備蓄する知識と技術がある時代』ってのは間違いないんじゃないかな。
それから、使っていた言葉。
アレはもう確実に日本語じゃなかったけれど、そもそも日本語で記された最古の文献は六、七世紀ごろの物だったって聞いた覚えがある。
なら、あの時代は『日本語がまだ創られていない時代』って考えられるでしょ。
まあ、僕が訪れたのは悪趣味な誰かがワザワザ黒髪黒目のキャスト達と一緒に用意した日本によく似た別の土地だったとか、実は魔界とは別に存在する未知の異世界だったとかまで言いだしたらキリが無いから割愛で。
そんなカンジで最初のキューブを縄文時代と仮定すると、じゃあ、次は今回の箱はどうなのかって話になるワケだけど、これはもうワザワザ改める必要も無いと思う。
だって……ねえ。刀に槍に甲冑があるって事はココって『金属を加工する知識や技術が普及している時代』で、社会科のセンセーが授業中に披露した雑学知識によると『幟は室町時代の初期に発祥し、戦国時代の頃には全国へ広まった』らしいから……
――うん、やっぱもうこれ以上ココに留まる必要無いね。
「ふう、じゃあ、戻りますかね」
ワザワザ声に出す必要なんて無いんだけど、これであとは仮説を実証できれば帰れると思うとやっぱりテンション上がっちゃって。
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