第17話
「――ヘ……? ……何、コレ……?」
もし、今、正面のキューブ達が鏡面化したら相当なマヌケ面が見られたんだろうなあ……
じゃなくて、何コレ? なしてこないケッタイな事になれはっとるん?
頭に浮かんだ疑問が導くまま電源が落ちたみたいに停電色になってしまったキューブへ手を伸ばそうとして――止める。
魔界でもこうやって不用意に触れた所為で、高圧電流とか飛び出す棘とか大爆発とかのえげつない罠に襲われる事が多々あったからね。ココは用心しないと。
とゆーワケで、またもや魔力をね~りねり――からの~、へ~んしん! とう!
ってなカンジで、さっき人間界でやったように例のドラゴニュートなキグルミを身に纏う。
……まあ、実際はコンマ〇一秒以下で練った真っ黒い魔力がこれまたコンマ〇一秒以下で全身を覆った挙句、ポーズキメるどころか声が吐息にもならない短時間で魔法が発動したんだけどね。要するに気分、フィーリングってやつサ☆
そんなワケで、約半秒ほど待たされていた右手は頑丈な無数の鱗に守られて再出発、ペタリ。
……何も起きない。
謎の吸引力も激しい斥力も発生しない。
ホントに電池が切れたみたい。
「……どういう事? 入れない? なんで……?」
呟き、首を傾げるけど、それで眼前の疑問が拭えるワケもなく、僕はプールで壁を蹴るように壁面に着いた手を押してキューブから身体を離した。
まさか、一度出たら二度と入れない……?
いや、いいや! それじゃあ辻褄が合わない。
でも、じゃあ、なんでだ?
ムムム、と唸りながら無重力に身を任せて胡坐+腕組みで暫く考え込んでいると、またもや発見があった。
「あ……? あぁあ! そうかそうか、全部じゃなかったのか! そりゃそうだ! 何の為にこんなバカげた数が積み重なってんだってハナシだよな~、うんうん」
よくよく考えてみればあんまりにも妥当な光景だった所為で、思わず『フフフ』なんて声が漏れた。
だってさ、聳え立つフィーバールー○ックタワーの中で灰色になっていたのは、眼前にある一個とその下に並ぶ一列の
……この事から察するに、人間界への入退出には何らかのルールが定められているってワケなんだろうけど、問題はそのルールとやらがどんなもので幾つあるのか、それらがサッパリ分からない事だ。
魔界では単純に暴力をぶつけ合うだけだったし、元からこの
「……まあ、現実逃避してたって仕方ない。取り敢えず、もっかい入ってみればその辺も分かるか……」
しょんぼりと俯いていた人外しゃくれ顎を上向けながらやれやれと嘆息し、コチラを見下ろして頭を悩ませてくださる電柱さんを見上げる……やっぱデッカいな~。
「ん~、上か、横か、それとも電池切れ共のもっと下ってのも……いや、こんだけデカいんだから、いっそ、ウンと離れたトコってのもアリか……?」
自分が安楽椅子探偵ではなく現場百遍の凡才だって自覚の元、ワタクシこと黒宮辰巳は次のキューブを求めて翼を広げた。
後々になって振り返ってみると、この時の僕は相当気が緩んでたんだと思う。
魔物が居ない世界、つまりは四六時中間断無く襲って来る外敵共の姿どころかその痕跡すら存在しない場所に居られて、しかも別の時代でとは言え再び人間と接触できた。
そりゃあ、隙だらけに独り言をぼやけたり、無駄にウンウン唸ってもいられるワケだ。
でもそれは、今までの二年を思えば、まさに空から垂らされた蜘蛛の糸みたいなもので、限界以上に磨り減っていた僕は思わず縋ってしまっていたんだ。
要は『あの地獄を抜け出したんだから、これからは何もかもが好転するだろう』って、何の根拠も無いのに信じちゃってたんだよね。
――だから、思い知らされた。
大切なものは脆くて壊れ易いからこそ、必死になって守ろうと思える――大切なんだと思えるんだって。
そして、一度壊れてしまったものは――喪ってしまったものは、もう二度と取り戻せないんだって事を。
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