第16話


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 ――ワタクシこと黒宮辰巳、御恥ずかしながら人間界の外、異空間へ出戻って参りました!


 ……いやね、僕も不本意だったんですよ?

 意気揚々と踏み込んでそのまま父さんと母さんと兄さんの元に帰れると思ってたんだから。


 でもしょうがないじゃん!

 ドコを見回しても森、川、山! 最初に出くわしたのはヒトとクマ!

 挙句、そのヒトは大して鋭くもない石槍片手に生地がクソ粗い民族衣装チックな服着て!!

 案内された場所には中一の一学期に勉強した竪穴式住居と高床式倉庫が乱立ッ!! 

 しかも、ソナーに掛かった数百人全員が最初の誰かと同じボロ布着て、これまた誰かが使ってたのと同じ謎言語で会話し続けてるしッ!!

 コレのドコが二十一世紀だッッッ!!!!!!

 ええ、ええ、そうですよ!

 僕が辿り着いた先は縄文時代だったんですよバカヤロウッ!!


 出たばかりのキューブを背にそんな思いを吐き出していた僕だけど、口から出ていたのはやっぱり『ゴギャァァァアアアアア!!!!!!』だった。

人間界から出た途端、何故か勝手に変身体が剥れて元の人の姿へ戻ってたのに、なんでやねん!?


 ふ~う、落ち着け落ち着け黒宮辰巳。

 どんなに怒れても憎くても思考を放棄するな。

 この程度、共に嬲られた時に比べればゼンゼン許容範囲ですよ……


 取り上げられたのは肉とかモツとかじゃなくて、大事な大事な家族との再会シーンだけどね♪ イラッ☆


 ……コホン、話を戻そう。今、僕は空間魔法で創った別空間へ繋がる空間の歪み――僕は単に門と呼んでる――を通ってさっきの異空間へ戻ったワケだけど、実際の所、怒る必要なんて全く無いってぐらいに好感触だったりする。


 まず、僕を吸い込んだ電柱型サイケデリック式立体パズルは、大方の予想通りに人間界そのものだったと判明した。

 これは魔粒子の無いカラッとした空気とか森で出会ったモフモフのクマさんとか人間とかクマさんのモフモフとかモフモフモフモフとかを見る限り疑いようが無い。


 更に、もしかしたらって不安を拭うように、人間界でも普通に魔力や魔法が使えた。

 そりゃあ、魔粒子が無い分だけ扱い辛かったけど、着の身着すら持ってないような現状では最高に心強い。

 まあ、異空間内でも普通に使えてたから、環境や世界毎で使用制限なんて無いのは当たり前か……


 アレ? 異空間ココも魔粒子のムワッとする感じはしないのに、なんで魔界と同じ出力が出せんの?


 ……………………ま、どうでもいっか。別にココで天寿全うするわけじゃないし。

 そんな事より、も一つ発見があるんですよ。なんと、魔力ソナーの仕様変更を発見しました! イエーイ、ドンドンパフパフ♪


 って、な~んもめでたくないんだけどね。寧ろ、魔界で使ってた時より不便になったって言うか、バランス調整って言うか、下降修正って言うか……


 魔界ではさ、魔物共の居場所とか大きさとか姿形とかだけじゃなくて、地形の隅々まで判別できたんだよ?

 それが何故か人間界の土や砂は魔力を透過するみたいで、僕が放ったソナーは地面の下で蠢く小動物達(詳細は省かせて下さいお願いします)のウゾウゾウジャウジャを堪能するハメに……ウヒィ~。


 ……ゴホン、まあ、木とか草とかはソナーに引っ掛かるし、何故か建物まで拾えてたから、それを頼りにある程度は補えるから良いけど。

 そもそも肝心の人間相手なら、人数どころか一人一人の頭からつま先まで骨格や筋肉全部に、更には着てる服まで纏めて捕捉、把握できたから全く問題無いしね。

 それに、視点を逆転させてみれば、土中に潜むを見付けられるって事だから、言うほど致命的な変更点ってワケじゃないよネ。寧ろプラス補正だよね……ウゾウゾが無ければ。


 そう言えば、ソナーを使った時、魔界の時と違って誰も何も反応しなかったケド、コレって人間界の生き物には魔力が認識できてないって事で良いのかな?

 だとすると、魔力ソナーってメチャクチャ便利じゃね?

 なにせ、コチラは身を隠したまま幾らでもの動きを探れるってワケなんだから。奇襲も殲滅もラクチンだネ☆


 ――っと、で、だ。こうしてポジティブシンキングを繰り広げてきたワケだけど、肝心要の《人間界へ帰る方法》についてはサッパリ分かりましぇん。


 そりゃあさ、さっき居たのが一万年以上前から西暦開始ぐらいまで続いたって言うあの縄文時代なら、あのキューブの中で何千年も待っていればその内現代に辿り着けるだろうけれど、幾ら僕が不死身だって言ったって不老かどうかは分からないんだから、この案は却下だ。


 え? 『《人間界でも》なんて随分引っ掛かる言い方だけど、どういう事?』って?


 そりゃ、アレだ。ホラ、僕ってが言うには魔界に二年も居たらしいんだけど、何故かその間一切歳とってなかったみたいなんだよね。身長も伸びてないし。

 それに、爪とか髪とかも伸びてな……いや、どうだろう? 一週間もしない内に肉ごと毟られたり切られたりしてたから分っかんね。


 曰く『異世界の住人は出身世界以外では異物と見做され、その世界の法則から爪弾きにされる』って事らしいけど、それが嘘かホントかは確かめてもないし興味も無いから、真相はよく分かんない。


 まあ、そんな事はともかく、何か取っ掛かりになるものでも落ちてないものか……

 一通り吠えてもまだ胸に残っていたイライラを溜め息に乗せて吐き出しながら、もう一度人間界に踏み込むべく振り返る。


 すると、僕が出たばかりなハズのキューブはまるで切れた電球みたいに光を失っていて、抹茶みたいな深緑色のつるりとした壁面をくすんだ灰色へと消沈していた。

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