これは妄想なのかなんなのか
木谷さくら
彼女いるのに、多分、妄想だけど
「つまり、人間は時間に振り回されているんだよ」
髪を金髪に染めた少年は、当然の如く真面目な顔で話している。
「君も?」
僕が問うと彼は頷く。
「わかっている、わかっているんだけど。俺は同仕様もなく人間なんだ、しかも日本人。周りに合わせないと生きていけないだろう?」
確かに、と考え込む。それが学生ならなお、だ。数学の授業は終わっているのに出された問題が終わっていないからと言っていつまでもその問を考えてるわけにも行かない。その後には国語の授業があるし、お昼ご飯だって食べないと部活の昼練に行けない。
彼は何が可笑しいのかクスと笑った。
「そんなに深く考えることでもないよ。だってこんなのは世界中の誰もが気づいて行動しなきゃ変わらない。そしてそれは叶わないことなんだから。」
そうだね、と笑うと彼はすうっと消えていった。
この現象がいつから何故始まったかといえば実はよくわからない。中学3年生の頃くらいだった気がする。
「彼ら」が頭の中に出てくるのは、僕が超能力者で、遠くの人と通信しているからかもしれないし、病気か障害かもしれない。まぁ、大方孤独な僕の妄想というところが事実だろう。
「やほー岸くん」
「おう、花梨」
こいつは俺の彼女だ。もちろん、彼女は頭の中。なかなか痛いやつだ、と自分でも思う。
「岸くん今日ごきげんだねー?」
「あぁ、さっきクロ君が遊びに来てくれたから。」
「あーあの金髪くん?私も好きだよ話面白いし」
「会ったことあるのか?」
「頭の中でね」
そう言って彼女はふふと笑う。
これには正直驚いた。頭の中の住人同士でも話ができるらしい。因みにこれは僕が作った設定かもしれないが、花梨から聞く限り彼女らに俺みたいな実態はあるらしい。
「おーーーい?岸?行くぞ部活」
「あぁー悪い悪い。」
これは現実。現実の人から話しかけられると頭の中の住人と会話をしていてもすうっと消えてしまう。
「最近彼女とはどうなんだよ」
「え?いや、別に、」
ついさっきまで話してたよ、とは言えない。俺は花梨のことを「頭の中にいる」ということは伏せてみんなに話している。悪いことだと言うことはわかっている。罪悪感もちゃんとある。でも、仮にでも彼女の花梨をないことにはしたくないと思っていた。
「別にってことないだろーー?写真も見せてくんないしよぉそろそろ見せてくれよな?」
横で歩いていた彼はいつの間にか後ろ歩きで僕の前に陣どっている。
「やだよ恥ずかしい」
「ケチ」
「ケチで結構」
彼はちぇーと昭和のヤンキーみたいにすねながら元の位置に戻る。
花梨は中々可愛いし、見せて自慢したいのは山々だ。それでも、肝心の写真が撮れない。あちらにも実態があるなら会えばいいと思われるかもしれないが、できないのだ何度かお互いの住所やメルアドを交換しようと試した。けど何回やってもザーッと言う効果音で聞こえない。
だからつまり、高校2年生にして俺は、初めて彼女ができた俺は、まだ女子と手を繋いだこともない。キスも。つまり、、、そういうことだ。
これは妄想なのかなんなのか 木谷さくら @yorunikagayaku
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