終曲
終曲
「ハルカ」
ハルカ 崩れた家の真ん中で
あたしは何度も血を吐いた
箪笥が倒れて足を挟んで
両足はもう、潰れていたよ
動かせるのは左手だけ
右手は梁の間にはさまり
ぶら下がったまま動かせなかったから
家具と家具の間で
私のおなかは圧迫されて
胸から上だけ
自由になった
首を動かすと
お母さんの吐息が聞こえた
熱い日差しが照りつけて
遠くで蝉の鳴くのが聞こえた
蒸し暑いこの家の中で
あたしはすごく喉が渇いた
吐いた血のせいで
喉も痛んでた
だからお母さんは
手に持っていた少しだけの水を
あたしにくれた
お母さんが動かなくなって
息をしなくなってしまうまで
ずっと
ずっと
私が怖くないようにって
私の体を抱いてくれていたの
ねえ
すごく痛かった
喉は張り裂けそうで
足にはすでに感覚がなくて
垂れた右腕はもう冷たくて
お腹がギシギシ言いながら
鮮やかな色の血を
ポタポタと地面に落として行ったの
でもね
お母さんといたら
なんだかそれも薄らいで行くようで
ねえ
あたし
夢を見ていたのかな
広い草原にいて
三人の天使に出会って
そしてね
お母さんと一緒に
すごくすごく
幸せなところに行くの
ねえ
あたし
夢を見ていたのかな
とても楽しい夢
ねえ
お母さん
どうして死んでしまったの?
私より一瞬でも長く
生きていてほしかったのに
痛いよ
すごく痛いよ……
ねえ
またあの夢を見てもいい?
目を閉じたら見られるでしょ?
ねえ、お母さん
痛いよ
痛いよ……
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