前奏曲

前奏曲

「僕」「銀の天使」


僕  ねえ


   これは秘密だよ

   そうっと言うからね

   聞き漏らさないように気をつけて

   そして

   誰にも話さないであなたの中に秘めていて


   だって

   話しても、誰も信じてくれないことだから

   息を潜めて

   耳を澄ませて

   じっとしていてね


   あのね

   僕は草原に立っていた

   いつからその草原に立っていたかは分からない

   ずっと、ずっと立っていたんだ

   そして、天使が僕にささやきかけて

   地上に降ろしてくださいって言ったのは

   ついさっき


   あのね、

   僕はわかったんだ


   ここがどういうところなのか


   暖かくも寒くもない

   でも僕や草を吹き抜ける風だけは肌で感じられる

   そういう空間


   地平線のかなた

   草の終わりが空に触れるところまで

   雲はひとつもない

   鳥さえも飛んでいない


   ただ、

   冷え切ったように冷たい太陽の光だけが

   ふりそそいでいた草原


   そこで、僕は足元が激しく揺れるのを感じた


   ぐらぐらと揺れているのに

   眩暈がするくらいに揺れているのに

   幻覚を見ているかのようになったはずなのに


   なったはずなのに

   僕は平然と草原に立っていた

   痛いこともない

   苦しいこともない    

   ただ、何故だか分からないけれど、心にたくさんの悲しみを抱えて



   そう

   ここは成層圏


   二度目の天使が舞い降りる場所

   かつて放射線の塵が舞ってきた場所


   そう、今

   僕の目の前には二度目の天使がいる

   そして僕にこうささやいたんだ


銀の天使 「ここは成層圏。私とともに地上に降りますか?」





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