夢の栞

『夢の栞』について

　それでは、決まりごとですので、これからお嬢さんが受けられる治療についてのお話をさせていただきますね。

　日本では『夢（ゆめ）の栞（しおり）』…世界では『Bookmark of a dream（ブックマークオブアドリーム）』として提供されているこの治療法は少々特殊でございます。

　まず、お嬢さんには専用の病棟に入院していただきます。

　いえ、いえ、お母さん、どうか落ち着いてください。

　さあ、落ち着くために深呼吸を一つお願いします。はい、結構です。

　お嬢さんは確かに心神喪失状態ではありますが、入院が必要なほど重度という意味ではございません。これは治療に必要な措置なのです。

　というのもですね、『夢の栞』はお嬢さんが眠っている間にされる治療なんですよ。

　ええ、不思議な顔をされるのも無理はありません。初めて話を聞く方は皆さんそういった顔をされますから。

　治療には専用のカプセルに入って眠っていただく必要があります。そのための入院措置です。

　要するに『治療のために夜は病院にいてもらわなくては困る』ということですので、治療の時間まで日中はどう過ごしてもらっても構いません。外出も届け出さえしていただければ基本的に制限はございません。

　ここまでで何かご不明な点はございますか？

　……ええ。なるほど。そのご心配も、皆さんよく言われます。

　しかし、お手元のパンフレットにも記載されているように、『異星人』と言っても温和で人に協力的な種族です。映画やゲームに出てくるエルフのような知性と落ち着きのある生き物ですよ。

　異文化交流…というと若干小難しくなりますが、彼らは人間を知るため、快く話し相手になってくれています。危険なことは一つもありませんよ。

　ほかにご質問はございますか？

　…では、この書類にフルネームの署名と印鑑をお願いします。

　口頭での説明は以上となります。

　最後に『治療カプセル』について現物を前に説明させていただきますので、夢見室（ゆめみしつ）までご移動お願いします。