第2話 山荘旅館 非連続性殺人事件 (5)

 今回は合宿に参加している生徒全員が容疑者だ。

 犯行は全員が可能な状況で、犯人を特定する証拠も出ていない。

 害悪探偵がいあくたんていこと、晴見はれみ 直人なおひとは犯人を特定する事はできるのだろうか?



 うちの先生の事情聴取を始めようとすると、学生の一人が立ち上がる。


「なんだこの怪しいおっさんは!」


 ごもっとも。うちの先生の様相は相変わらず古風なインバネスコートを着ているが、下には相変わらずTシャツとジーパンといったちぐはぐな出で立ちだ。

 おそらく既に長い聴取を受けていたのだろう、立ち上がった容疑者は苛立ちいらだちを隠さない。


「事情聴取はもう十分しただろう。俺はもう帰る」


 嵐山警部補が制止して、どうにかなだめるようにする。

「すいません、まだ帰す訳にはいけないんですよ規則でして」


「じゃあせめて客室に戻らせてくれ。この中に殺人犯がいるんだぜ、こんな場所に居られるか」


 その言葉を受けて、うちの先生が何かに興味を持った。


「それは一人で部屋に戻るという事ですか?」


「そのつもりだ」


「なるほどなるほど、彼はの名前は?」


鷺宮さぎみや清彦きよひこ、2年生です、被害者との関係は……」


 嵐山警部補が詳細な情報を言おうとしたところ、うちの先生はそれを制止する。


「ああ、わかりました。彼は犯人ではありません」


「それはなぜです?」


 突然の宣言に嵐山警部補は理解が出来ない。

 というか、この場でこの意見の飛躍ひやくについていける者はいないだろう。

 周りの容疑者の方々も訳が分らずキョトンとしている。


「こういった山荘やロッジで集団から抜けだそうとする者は犯人か、もう一つの存在しかありません。

 それはなんだか分りますか?」


 うちの先生が嵐山警部補に少しもったい付けて言う。


「なんでしょう? わかりません」


「良いですか、それは新たな被害者です。

 途中から部屋を抜け出した人物は、ちょっとだけ用事をすませて、直ぐ戻ってくる約束はずなのに、なかなか帰ってこない。

 そこでしょうが無くみんなで辺りを散策すると、森の中などで死体として発見されるわけですよ」


「いやいや、抜けだそうとする人物は犯人で、証拠隠滅の為に別行動を取る、という筋もあるでしょう」

 嵐山警部補がもっともな推理で反論をしてきた。


「たしかに犯人という筋も考えられますが、彼は致命的な発言をしてしまいました。

 『この中に殺人犯がいるんだぜ、こんな場所に居られるか』と。

 この台詞を言ってしまったが最後、彼は新たな被害者になり得ても、犯人にはなり得ないのです」


 そう言われれば確かにその台詞を吐いた人間は、推理小説やホラー映画の中では真っ先に死ぬ。

 だが、これは現実の殺人事件だ。このような推論で大丈夫なのだろうか?


「たしかに、そうですな」

 嵐山警部補はこの説明に納得してしまったようだ。



「なんだこいつら、おかしいぞ」


 鷺宮くんが事態の異常性を感じ取って騒ぎ出した。


 分る。鷺宮くんの気持ちがとてもよく分る。こんなおかしな推理で結論を出されてしまうのは納得がいかないだろう。

 だが、『この中に殺人犯がいるんだぜ、こんな場所に居られるか』と発言してしまったキャラの行方は一つしかない。

 めちゃくちゃな理論の展開だが、僕も少しだけ納得できる部分もある。


「少し離席をするだけななのに死ぬわけはないだろう!」


 鷺宮くんは一般的な反論をした。すると部活の仲間から、


「いや、単独行動は危険だよ、今はやめておいた方が良いと思う」

「そうだ、下手したら死ぬぞ」

「俺も死ぬと思うぞ」


 そんな声が上がる。

 まわりの賛同を確認し、うちの先生が雄弁ゆうべんに語る。


「鷺宮くん、あなたは容疑者リストから外れ、被害者リストに載りました。もう自由の身です」


「そうなのか? じゃあ俺は客室に戻ってもいいのか?」


「どうぞどうぞ、部屋に戻って直ぐにでも第二の被害者となって下さい。その方が事件が大いに盛り上がる」


「……いやだ、死にたくないのでココにいるわ」


「……ああ、そうですか。つまらない」


 探偵としては不適切な発言が見受けられた。余計な一言が多いのがうちの先生の玉にきずだ。

 周りはあっけにとられているようだが、そんな事はお構いなしに容疑者の割り出しは続く。

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