第1話 丹沢徳次郎 殺害事件 (5)

 あの悪夢の日から3ヶ月が立った。


 殺人を犯したにもかかわらず、僕は刑務所に入らずに済んだ。

 未成年という事と、体に残されたいくつもの痣が虐待の証拠となり『情状酌量の余地有り』と判断されたようだ。


 もしかしたら、こっそり録音していた一連のやり取りを『ネットに公開する』と警部補を脅した事が一番効いたのかもしれないが、今となってはどうでも良い話しだ。


 もちろん、判決の行方は『無罪』とはならなかった。執行猶予がつき保護観察官の監視下に置かれている。

 それだけではない、僕は今、道路をホウキで掃いて掃除をしている。社会奉仕活動というヤツだ。

 刑務所での拘束の代わりに、この活動を押しつけられた。


 いまではこうなってしまった事に後悔をしている。

 なんであの時、あんな事を……


「事務所の前の掃除は終わったかな? では今度は事務所の中の掃除を任せるよ」


 すっかりなじみとなった声が僕に話しかける。


「もう事務所内の掃除は終わっています、晴見はれみ先生」


 そう、僕は今、探偵晴見はれみ 直人なおひとの事務所で奉仕活動の一環で働かされている。

 雑用として、助手として、良いように扱われている。高校の授業が終わった後なので、拘束時間が短いのがせめてもの救いだ。

 ちなみに保護観察官は最悪な事にこの男である。



「では、掃除が終わったら休憩しよう。

 ちょうど良い機会だ。推理小説がなんたるものか、教えてしんぜよう」


 コイツだけには推理小説を語って欲しくない。そこで僕はささいな反撃をする


「そういえば先生、推理小説の禁忌って知ってます?」


「何となくなら覚えているよ。たしか

 『1.犯人は作品の中に登場している人物でなければならない』

 『2.読者が理解不能な機械、トリックを用いてはいけない』

 『3.犯行現場に秘密の抜け道や通路を使ってはいけない』

 あとなんだったかな?」


「事件の解決の方法に『超自然能力チートのうりょくを用いてはならない』って項目ありませんでしたっけ」


 さてどうだ、この質問にこの男はどう答える。


「そんな事があったっけ? 私はそんなささいな事には興味はない。

 さあ、きょうも元気に警察無線の傍受ぼうじゅをはじめようか」


 こいつ…… 自分の都合の悪い事はすぐコレだ。いい加減きわまりない。

 僕が休憩時間に推理小説を読んでいる最中も、何度となく犯人をバラして来やがった。こんな探偵は小説の敵だ。なんでこんな事になってしまったのだろう……



 こうして僕の地獄のような生活が続く。

 もしかしたら、刑務所に服役した方がマシだったかもしれない。

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