害悪探偵 晴見直人 ~超常的な推理力がもたらすモノとは~
クロウクロウ
第1話 丹沢徳次郎 殺害事件 (1)
僕の名は
運動神経は普通、学力は中の上くらい、趣味は読書、好きなジャンルはミステリー。どこにでも居そうな普通の高校生だが、家庭環境が少し複雑だ。
父親は財閥の会長を努め、世間ではかなりの金持ちといっても良いだろう。小高い丘の上にある大豪邸に僕は住んでいる。
そんな僕の事を、クラスメイト達はうらやましがるが、立場が変われるものなら代わって欲しい。父親に付けられた幾つもの
人は生まれ持った
それでも僕は耐え続けた。しかし、唯一の心の支えだった母さんは2年前に他界してしまった。
僕には失うものは何もない、だからあの計画を。
推理小説からヒントを得たあの計画を、実行に移した……
計画を実行した翌日の朝、老いた父親の様子を見に行くと成果は上々で、ソレは冷たくなっていた。
父親で
自宅の寝室で、
ヤツは心臓に持病を持っていて、この状況なら死因は病死となるだろう。
こうも簡単に殺せるというのなら、もっと早く実行していれば良かった。
僕は脈が無い事を3度ほど執拗に確認して、いちおう119番に通報して救急車を呼ぶ。
これが普通の貧乏人なら『病死』で片がつくが、財閥グループ丹沢開発の会長となれば話しが違ってくる。
救急隊を呼んだはずが、なぜだか警察が押しかけてきて、家の中を勝手に『殺人現場』にすると、
捜査員はイタリアから輸入したアンティーク調のドアの指紋を採取したり、悪趣味な金の装飾を施した窓枠などを丹念に調べているが、そんな所を探したところで何も出てくるハズが無い。もしたとえ指紋が出てきても、家族の指紋なら怪しまれる事はないだろう。
それに、肝心な天井にある1cmほどの小さな穴には目もくれていない。捜査員の目は節穴のようだ。
父親だが、生前は実に敵が多い人物だった。
潰してきた競合会社の数は数えきれず、恨みを持っている人数は把握すらできないだろう。
敵は外ばかりでは無い、社内にも身内にも数えられないほどいる。
この家には父の他にも僕と兄と姉の3人が住んでいるのだが、3人ともヤツを殺しても構わないと思うほど憎んでいる。
犯人を絞り込めない無能な警察には、この事件を解決することは出来やしない。
……捜査が始まりかれこれ7時間は立つ。
『自宅の寝室で密室殺人、外傷などは一切無い』この状況からして警察が考えている手段は毒殺ぐらいだろう。
捜査員はコップやら葉巻やら口を付けそうなモノを丁寧に調べている。
僕の用いたモノは、毒とはいえないモノなので、いくら調べても無駄だ。どこにでも存在していて、検査で検出できるようなモノはないのだから。
「
捜査員の一人は現場の最高責任者の警部補にそう報告する。
「うむ、分った」
部下に短く返事をする。警部補の表情は険しい。
おそらく40代半ばの無精髭を生やしたこの男は、これまで刑事という経験上『何か』に感づいているのだろう。
そうでなければ7時間もネチネチと捜査を続ける訳がない。
だが、捜査員達は相変わらずどうでもいい同じ場所を、アホみたいにくり返し引っかき回している。時間の無駄だ。それに、あの場所には近寄りもしない。
「では、ご家族のお方、もう一度お話をうかがってよろしいでしょうか?」
警部補は我々の方を振り向くと、そういった。
これで3度目、いや4度目か。もういい加減にしてほしい。
「いえ、知っている事は全て話しました」
兄が素っ気なく断る。
「そうよ、もう話す事は無いわ」
姉も嫌気がさしているようだ。
「兄さん、姉さん、人が死んでしまったんですよ、ここは警察に協力しましょうよ」
僕がなだめるフリをする。
おそらく内心では、僕が一番ウザいと思っているのだが、その表情は微塵も外には出していない。
いままでの境遇からこういった演技だけは絶対の自信があった。
「すいませんね、これも仕事なんで」
警部補が話しを続けようとした時だ、捜査官の一人が近寄り、こう告げた。
「情報提供者が現れました。なんでも犯人を特定する事ができるという事です」
「……よし、ここに通せ」
警部補がそう部下に命ずる。
これはどういうことだ?
僕はミスなど一つも犯していない。
考えられる事と言えば、あの重い道具を搬入する際に見られていたとか……
いや、それはないハズだ、カモフラージュは完璧だった。
だが、よく警部補の様子を見ると、どうもおかしい。
情報提供者が現れたのだから喜ぶべきはずが、眉間にしわを寄せ苦悶の表情を浮かべている。
……そうだ、これは、ハッタリだ。
こちらの出方をうかがっているだけだ。
落ち着きを取り戻した僕は、その情報提供者がどんなヤツなのか見極める事にした。
どうせ大したことの無い
しばらくすると、その男は現れた。30才前後の
夏だというのに時代錯誤なインバネスコートを着ている。
インバネスコートとは、よく名探偵ホームズが着ているあの変わったコートの事だ。
場違いでも古風な服装で統一していれば、そこそこ納得はいくのだが、下にはTシャツとジーンズという実にいい加減な格好で現れた。
「ガイアク
その男はそういって名前を告げる。なんだコイツは?
「・・・やはりお前か」
警部補がそうつぶやいて、うなだれた。どうやら良くない知り合いらしい。
「警察無線を
その男は、一歩間違えば犯人のような、そんなセリフを吐いた。
「がいあくって、災害の害に、悪いと書いて、
僕は気になり思わず聞いてしまう。
「そうだよ、その害悪で間違いはない」
「それって悪口なのでは……」
「世間一般では悪口かもしれないが、どういう訳かこの呼び名は気に入っていてね、君も『害悪探偵さん』と、呼んでも構わないよ」
「
「そう、つれないね君。まあいいや事件をパパッと解決しますか」
そういって警部補が記述した調書を取り上げ目を通す。
「君、困るよ、いちおう部外者なんだから」
「なんです? 嵐山警部補。私の実力は知っているでしょう?」
「ああ、その実力だけは認めよう……」
警部補は書類を見る事を黙認をしてしまったようだ。なんなんだこの男は?
「ではここからは私が推理を行いながら犯人を特定します」
その男は常識では計れない、不可解な推理が始まった。
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