4 俺と天使と脳内寄生幼女の夜。上
「はい、ラーメンに天ぷらに豚カツ」
リビングテーブルに置かれる俺とアンジェ二人分の晩御飯。全体的に不健康そうで、なんと言っても、まっ茶色すぎる。油のジュースを飲むようなものだ。
決してパーティーなんぞ開こうってわけじゃない。そう、この力士が食べてそうなこの量が二人分なんだ。
「……おお、おいしそうですねぇ。……じゅるり。ではではいただいちゃいます」
アンジェは両手を合わせると、目の前にある茶色い食べ物たちにゆっくりと手を付けていく。
それを見た後、対席にいる俺も手を付けていく。
『んんー、美味なり!』
脳内のフクっちが至福の声を上げた。
『どうした、フクっちも今何か食べてんのか……ってそう言えば味覚も共有してるんだっけか?』
『そうそう、いやー聡兄料理うめぇなー』
『そりゃどうも』
俺が飯を口に入れるたびに、フクっちが味の感想を言ってくれた。いいな、自動でお腹一杯になれるなんて。
「あっ、ソーマさんソーマさん!」
「ん、なんだ? ご飯のお替りか……って違うのか」
いつもアンジェが食事中に俺に話しかけるときはそんなことなのに、アンジェのお椀を見る限りは大量の白米が残っている。
「いや、流石に私そんなに早飯じゃないですよ。太るって言いますし……、じゃなくてですね。天使総会の報告をしようかと」
天使総会……俺が予想するに、超頭が悪い人たちが参加する天使の月一の会議のことだ。
「で、その天使総会がなんだって?」
「ソーマさんの元にはもう届きました?」
「……何が?」
「ええと、なんでしたっけ。……あ、そうそう幸福ゲージのことですよ」
アンジェはいったん悩んだが、すぐに思い出した。
しかしなぜその存在を……? 俺が神様にもらったものなのに。
『おーいフクっち、どういうことだー?』
俺はすぐさま脳内寄生幼女を呼び出す。今までずっとしゃべってこなかったのはキングサイズのベッドの上でライトノベルを読んでいるからだろう。
『……あ、はいはい? ごめん漫画読んでた。ちなみに答えは《何も知らない》。』
ライトノベルではなく漫画だった。食事中にマンガ読むなよ。
しかしそんなことはどうでもいい。
『ああそう。お前もこれからアンジェが言う事よく聞いとけ』
『了解であります聡兄』
多分フクっちはフカフカのソファーに座りながら俺のビジョンを見るのだろう。いいなあ俺の脳みそ。超優良物件じゃん。
「幸福ゲージは確かに届いたけど……なんでお前がそれを知ってんだ?」
「だって今日天使総会じゃないですか」
「いやいや知ってるけど、それは理由になってなくないか?」
「ソーマさん、天使総会って何かわかってます?」
「偏差値二十五の天使たちが月一で集まってぺちゃくちゃおしゃべりする会のことだろ?」
幼稚園の日常か! と、是非ともツッコませていただきたい。
「偏差値ってのが何かは分かりませんが、今は戦闘力みたいなもんだと思っておきますね。ですが、それを抜いても全然違います」
偏差値を戦闘力で理解しちゃったよこの堕天使。いや発想を変えればそうだけども。
しかしまさか……本当に会議しているとでも言うのか。それは失礼なことを言ってしまったかもしれない。
「なんだちゃんと話し合ってたのか」
「いえいえそこじゃないです」
アンジェは首を横に振る。おい、本当に喋っているだけなのかよ! だとしたらどこを間違えていたんだ?
「のんのん。天使総会に参加してるのは天使だけじゃないんですよ」
アンジェは人差し指を横に振る。なんかイラっとくるな。
「いやだって天使の総会じゃ……」
「もちろんメインは天使なんですけどね。参加資格は天界に住む生命体全てなんです」
「と、いうことは?」
「神様がいるってことです。まぁ他にもナタトヒトセコニノ星人とかアルヤカサニコフ星人とか……」
アンジェが全くつっかえずにスラスラ言っていた後者のやつは、何を言っているのか分からなかったが……そういうことか。
「神様に言われた、と」
「そうですよ。早く家に帰ろうと会場を出ようとしたら、なんか呼び出されちゃいまして。しかもがみがみ言うんですよ、あのオジサン。苦情がなんたらーって」
神様に向かって「オジサン」呼ばわりとは……。そろそろ天罰が下ってしまっても文句は言えない。
アンジェは居酒屋の中年が上司の悪口を言うようなテンションで、「ぷはー。それにしても酒がうめぇ」だなんて言っている。いったいどこからそんな毒された日本文化を学んできてしまったのだろう。なお、飲んでいるのはクリスマスパーティーで余ったシャンメリー。
「もう少し簡潔に言ってくれ」
「えーとですね。まぁもう神様から聞いていると思うんですけど、苦情の数がすごいから任務交代させる。って感じですかね。というか私のいないところでこそこそ神様と電話してたんですね、このう、わ、き、も、の!」
「ってことはやっぱり神様が言っていたことは本当だったのか……」
「あのソーマさん、せっかくのボケに反応していただけないといくらなんでも可哀そうです、私が」
アンジェはテンポを取られ、調子を狂わせる。
それにしても《任務交代》、なんとも素晴らしい四字熟語だと思う。イッツソウビューティフル!
「……とまあそーゆーことなんですよ。聞いてます、幸福ゲージさん?」
『えっ? あっ、はい。聞いてるでございますよ⁉』
アンジェの唐突な問い掛けに、新しい日本語で返答していくスタイルのフクっち。しかし、その返答はもちろん俺の脳内にしか届いていないので、俺は思わず小笑いしてしまった。
「フクっち――えーと、この幸福ゲージの名前なんだけど……こいつの話してる言葉は俺にしか聞こえてないぞ?」
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