先生

第1話



 六月四日(月)


 お昼休みにトイレの個室でお弁当を食べていたら、上から大量の水をかけられた。転がるバケツの音、複数人の笑い声、駆け足で離れる足音。

 姿を見なくても黒瀬さんたちの仕業だとわかる。

 びしょ濡れの制服、ぐしゃぐしゃのお弁当。お母さんになんて言い訳をしよう。

 



 六月五日(火)


 思い切って担任の先生に相談したけれど、まともに取り合ってもらえなかった。

「証拠がないと、注意の仕方も難しくなってくる」からだそうだ。

 昨日の昼休みから放課後まで、クラスで唯一ジャージ姿だった私に気付いていなかったのだろうか。




 六月六日(水)


 宿題が多い。自分のだけでも参るのに、黒瀬さんのまでやらなければならない。彼女の筆跡や字のクセを真似する。

 彼女は決まって「謝」と言う字が「射」になるので、気をつけないといけない。




 六月七日(木)


 体育を終えて更衣室に戻ると、制服のシャツが裂けていた。

 黒瀬さんの笑い声。クラスメイトは見て見ぬふり。

 お母さんが仕事から帰ってくるまでに縫い合わせておかないと。余計な心配は掛けられない。




 六月八日(金)


 辛い。

 いつからだろう、もう覚えていない。

 いつまでだろう、終わりなんて来るのだろうか。

 ここから一歩踏み出せば、すべて終わるだろうか?

 死ねば自由になれるだろうか?




「ちょっと待って」


 屋上のドアが開く。


「もし良ければ、僕に話してみてくれないかな」



 それが私と八雲先生の出会いだった。



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