◯コーラスコンクール
夏休み明け、みんな日に焼けていた。
部活があったり、プール行ったり、海行ったり。
焼け方は様々だけれど、みんな黒い。
焼けてないのは、僕と僕好みの女子ぐらいか。
多分、僕と似ていて、外が好きじゃないのだろう。
まあ、それはそうと、コーラスコンクールの曲を決めなければならなかった。日にちは1ヶ月後だ。
僕は教壇に立つはめになって、曲を出してくださいと呼びかけたが、ざわざわしていて話し合いにならない。副ルーム長の女子は大人しめで、困っている。僕はというと、にこにこしている。
注意などできるものか。ただ、笑顔で、
曲出してくださいと呼びかけるだけだ。
先生は何も言わない。
文化祭のあたりから、先生は僕に期待をしているようだ。だから、僕も仮面を付けて、お応えしているというわけだ。にもかかわらず、
こいつらは、話を聞こうとしない。
いらいらするけど、粘るしかない。
終始笑顔だ。
本当に疲れる。そこで、埒が開かなかったので、
「平和の鐘でどうかな?」と聞いた。
そこで、ようやく
「えー、それぇー?」
クラスが反応した。しかも、批判的な要素を含め。
「じゃあ、他にある人ー?」
しょうがないから、聞いてやったのに、
誰も言わない。そのくせ、提案した曲には
いちゃもんをつける。怒鳴ってやりたかったけど、
怒鳴れるものか。
笑顔で説得した。
そして、曲は平和の鐘になったのだった。
それからが、とりあえず大変だった。
練習を呼びかけても、4人しか来ない。
その4人も決まった連中で、1人は帰宅部。
もう1人はやる気のない帰宅部。
もう1人は書道部。
もう1人は僕好みの女子。
いつもこのメンバーだ。
1人の帰宅部は音楽が好きでやる気もある。
だから、助かる。
やる気のない帰宅部は暇つぶし。
まあ、来てくれるだけありがたいけどね。
書道部の女子は、今1年生することないからと、
協力的であった。
僕好みの女子は、とりあえず真面目なのだろう。
この5人でやるけど、ソプラノ1人、アルト3人、
テノール1人、伴奏者来ない。本当に何をして良いかわからない。そんなストレスを感じる中でも、
やはり僕は笑顔なのだ。
とりあえず、携帯の音源で各々練習を重ねる。
これをずっとやっていた。
クラス全員集まったのは、1週間前になってのことだった。先生が呼びかけたらみんな来た。
それでも音程はバラバラで、曲になっていなかった。騒ぐ奴いるし、携帯見てる奴いるし、
練習にもならない。そんな時いつもアルトの女子からクレームが来る。
「このままじゃ、やばいよ?なんとかしなよ。」
トゲのある言い方だ。じゃあ、お前がなんとかしろ、とか思ったけど、お決まりの笑顔で、
誤魔化しておいた。
もし僕がこんな立場じゃなかったら、
もし僕が、仮面を付けていなかったら、
もっと楽だっただろうな。
そして本番。
伴奏者は練習をまともにやっていなく、
指揮者ともかみ合わず、歌声も、
うろ覚えで、大失敗だった。
強いていうなら、僕を含めたあの5人は、
先生達の評価をいただけたことぐらいだ。
頑張ったと思う。少なくとも、
この5人はやったと思う。
帰宅部の1人の声がよく聞こえた。
もう1人の帰宅部も、暇つぶしにではなく、最後は練習しに来ていた。
書道部の子も、堂々たる歌いっぷりだったと思う。
僕好みの女子も、まあ、多分、大丈夫だったと思う。僕だって、笑顔で大きな声で歌えたと思う。
だから、それなりの評価をいただけたのだ。
でも、結果は銅賞。全校の笑い者になった。
その日の帰る途中、僕好みの女子が僕に
歩み寄って来た。
誰にも聞こえぬ小さな声で、
「どうしてなの?」そう聞いて来た。
僕は笑顔で、
「どうしてってなにがー?」そう返したけど、
彼女は深刻な顔をして、
「どうして、本当のこと言わないの?」と言った。
「本当の事ってなんだよー。」
「本当は、色々思ってるんでしょう?」
何かを見透かされているような感じだった。
でも、仮面や中身なんてバレてたまるか。
「いや、これで良かったと思うけどー?」
「嘘つき。わかってるから。」
僕好みの女子は、鋭い何かを持っているようだ。
そう言われた瞬間、
''ピシッ''
何かヒビが入るような音がした。
「ま、まあ、これからはなんとかしよう。」
そう誤魔化して逃げた。
それからのこと、ある事件が起きた。
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