◯文化祭前

ある時僕は、こう言われた。

「本郷君ってさ、すごい優しいよね。」

2年前の、つまり高校1年生の時の文化祭の前だったか。みんなで、タピオカを売ることになって

準備をしていた。みんな張り切る割には

準備をなかなかしない連中で、正直イライラした。

それでも、真面目にやる人達は少々いた。

前日の放課後、教室に2人女子がいた。

ひたすらに色紙を切ってはシールを貼って、

タピオカの注文用紙を作っていたようだ。

結構時間のかかりそうな作業で、やりたくなかったので、スルーすることにした。でも、1人の子と目が合ってしまったので、

僕は手伝いに行かなければいけなくなったというわけだ。

そして、笑顔で何をすればいいか聞いた時、

「本郷君ってさ、すごい優しいよね。」

そう言われたんだ。すかさず僕は、

「いやいや、ルーム長だから、当たり前だよ。」

そう返した。その女子は、感心ばかりしていた。

悪いけど、手伝いたくなかったよ。

普通に帰りたかったし、第一、

ルーム長だって、僕がなりたくてなったわけじゃない。僕は放送委員になりたかった。

なのに、勝手に、勝手に変えられていた。

でも、嫌とは言えず、笑って承諾してやった。

今思えば、少しいらいらしてくる。

もちろん、表には出さないけどね。


とりあえず、タピオカは即完売。

準備をやらなかった奴らが、当日は張り切って、

だいぶ売れたし、評判も良かった。

僕も客引き込むのに必死だったから、

準備した甲斐があるといえば、ある。

でも、みんな、俺らのおかげ、うちらのおかげ、

とか思ってるみたいで、よっぽど、

準備を頑張っていた女子達の方が手柄がある、

とか思っていたわけだ。まあもちろん、

笑顔で対応しておいたけど。

まあ、疲れたよ。

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